不登校新聞

395号 2014/10/1

【公開】どう動くFS支援① 首相視察は大きな動きの一つ

2014年10月31日 15:55 by shiko
2014年10月31日 15:55 by shiko


 あっという間の出来事だった、というのが率直な思いである。フリースクールへの支援策、およびその検討をめぐって、この2カ月、急激に事態が動いた。安倍首相のフリースクール訪問が話題になっているが、それだけでない。まず行政の動きのみ整理しておく。

 一連の動きの発端となったのは、安倍首相の諮問機関「教育再生実行会議」の「第五次提言」だ(2014年7月3日)。ここで、フリースクールの位置づけ、公費負担や就学義務のあり方を検討するよう提言がなされている。その後、8月下旬から、わずか2週間強のうちにフリースクール等担当官任命、安倍首相の視察、大臣による有識者会議の設置発表などが相次ぐ。下村文科相は、内閣改造で再任の際、首相からの指示書に「フリースクールの今後の在り方の検討」が盛り込まれていたことも明らかにした。

 どのフリースクールも公的支援がほとんどなく、財政はひっ迫している。学校外の居場所、学び場として既存の教育機関外で子どもを支えてきたフリースクールの意義はここでくり返すまでもない。私自身もフリースクールで育ったひとりである。フリースクールへの公的支援は必要である。
 
多様性の担保と家庭への介入は

 しかし懸念もぬぐえない。安倍首相の視察後、本紙にもいくつかの声が届いた。私自身が感じる懸念は「多様性の担保」と「家庭への介入」である。

 公的支援は公平性を担保するため、定義や線引きを必要とする。たとえば08年、高校年齢でフリースクールに通学する場合の通学定期券の適用が認められたが(小中学生は1992年に認められている)、認められたのは、高校に所属していてフリースクールにも通う生徒のみだった。これはフリースクール関係者とフリースクール環境整備推進議員連盟(当時)が動いて実現したものだが、当初は、フリースクールに通う高校年齢の子すべてに通学定期券の発行を求めていた。このようにどこで線を引かれるかにより、公的支援の範囲は決まっていく。

 フリースクールは規模も考え方も多様である。競争原理や既存の教育理念とはちがう理念を持つ団体も多い。これらの団体に支援は行き渡るのだろうか。

 もうひとつは「フリースクール等支援策」という「等」のなかに「ホームエデュケーション」も含めて検討される可能性があること。家で育つという道は保障され認められていくべきである。しかし、同時に教育行政が家庭に介入していくことには抵抗を感じる。

 首相や大臣の言葉をそのまま受けとめれば歓迎したいが、正直に言えば、なぜ急にいまになって政府が支援策を考えているのか、その目的、根本が見えないことに妙な不安感を感じている。
 
●フリースクールにとっての判断材料を

 いずれにせよ事態は現在進行形で動いている。この件に関して本紙は、フリースクールの各団体が活かせる情報を発信したいと考えている。まずは、いま政策を動かしているキーマンに取材を続け、同時進行で読者、とりわけフリースクール関係者から懸念や期待する声を集めていきたい。そして可能なかぎりキーマンへの取材は読者からの懸念、期待の声を反映させることで現実的な判断材料を提供していきたいと考えている。(東京編集局・石井志昂)


●9月10日、安倍首相の発言
 まず、子どもたちが、いじめなどにより学校に行けなくなっているという状況から目を背けてはならないと思います。すでに教育再生実行会議において、いじめ対策等をまとめてきましたが、不登校になっている子どもたちにとって、こうした東京シューレのような場、さまざまな学びの場があって、そこでそうした経験も生かしながら、将来に夢を持ってがんばっている子どもたちがいるということも伝えていきたいし、学び方、あるいは生き方にもさまざまな生き方、学び方があるんだということも、われわれは受け止めながら、そういう対応をしていくことが大切だと思います。

 そうしたなかにおいて、教育再生実行会議の報告書を受けて、学習面において、あるいは経済面において、どういう支援ができるかということについて検討するように文部科学大臣に指示をしたいと思います。
●9月16日、下村文科大臣の発言
 先週10日、安倍総理が東京シューレを視察され、このフリースクールなどで学ぶ子どもたちに関し、「学習面においてあるいは経済面において、どういう支援ができるか」を検討するようにと指示をされております。

 私としても、不登校であったとしても、それぞれの子どもの能力が生かせるよう、すべての子どもたちにチャンスを提供することが求められていると考えております。このため、多様な子どもたちに対応できる教育のあり方を検討することが必要と考えております。

 文科大臣再任のときの指示書のなかにも、このフリースクールの今後の在り方について検討するようにという総理からの指示もありましたので、今までの枠を超えて、文部科学省として、このフリースクールに対してどんな支援をすべきか、来月には有識者会議を立ち上げ、今後検討作業を加速していきたいと考えています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1351736.htm


 
● 6月3日 「フリースクール等議員連盟」発足
● 7月3日 第五次提言発表/教育再生実行会議
● 8月8日 学校基本調査速報「不登校7000人増」と発表/文科省
● 8月26日 報道「フリースクール、教育機関に位置づけ…財政支援?」/ 読売新聞
● 8月29日 概算要求発表「フリースクール等支援策」に約1億円を計上/文科省
● 9月1日 フリースクール等担当官任命、フリースクール等プロジェクトチーム発足/文科省
● 9月10日 安倍首相、フリースクール「東京シューレ」視察「支援策の検討を指示したい」
● 9月16日 文科大臣、記者会見でコメント「来月から有識者会議を設置する」
● 9月17日 「フリースクール等議員連盟」、フリースクール 「東京シュ ーレ」視察
● 10月 有識者会議「フリースクール等に関する検討会」開催予定(現段階では会の名称不明)

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