橋下徹大阪市長が就任して半年、この間、大阪市や大阪維新の会などから次々にくりだされる行政改革の諸提案には、子どもの人権尊重という観点から見て問題点が多々見られる。
ただ、間をおかずに次々に諸提案が出されるため、一つひとつを検証して批判・反論するのが難しい面もある。また、出された批判・反論などに対しても、市長サイドはかたくなな姿勢をとっている。以下、可能なかぎり、大阪市の子ども施策の現状をお伝えしたい。
5月、家庭教育支援条例案が各方面からの批判・抗議を受けて撤回された後(本紙338号参照)、11日に大阪市「市政改革プラン(素案)」のパブリックコメント募集が始まった。これは4月公表の「施策・事業の見直し(試案)~市役所のゼロ・ベースのグレートリセット~」をふまえたもので、子どもの家事業の留守家庭児童関連事業(いわゆる学童保育)への統合、不登校の子どもの相談・居場所事業の一部廃止、子育ていろいろ相談センターの廃止など、さまざまな悩みをもつ子どもや保護者にとってのセーフティーネット機能を持つ事業の打ち切りや縮小の提案が含まれていた。
パブリックコメント受付期間は5月29日までと短かったが、約2万8000件のコメントが寄せられ、その9割近くが素案内容に反対・撤回を求めるものであったという。しかし、この結果に対して、橋下市長は反対の人が意見を出すことが多いわけだから、統計的には意味がないという趣旨の発言をしている(MSN産経ニュース6月22日「橋下日記」)。
一方、その5月中に、大阪市議会では「教育基本条例案」の修正案である教育行政・職員のふたつの基本条例案と、学校活性化条例案が審議され、5月25日、教育行政・職員のふたつの基本条例は可決された。
教育行政基本条例(以後「条例」と略)は、「社会が多様化し激しく変化する中で、国際化の進展や未曾有の災害の発生等を踏まえ、子どもが心豊かに力強く生き抜き未来を切り拓く力を備える」(前文)教育を行うことなどを目的としたものである。また、その実現に向けての教育振興基本計画策定を、市長が市教委と協議して行うとしている(第4条)。
家庭教育についても条例8条2項で、その自主性を尊重するとしつつも、市教委が市長と連携・協力して「家庭の教育力」向上に向けた諸施策を実施するという。なお、現在、大阪市内の各区単位で、学校選択制と中学校給食の導入に関する住民との懇談会も実施されている。
この学校選択制導入には住民側から反対意見が多数寄せられているが、それが尊重され方針が修正・撤回される兆しは、今のところ見えていない。
子どもの人権尊重する大阪に
以上、5月だけでも、教育や福祉などの大阪市の既存の子ども施策が、まさに急ピッチで「リセット」されようとしている。それを「社会が多様化し激しく変化する」ことに含むなら、先に紹介した条例は、このような社会を前提に「子どもが力強く生き抜く力」を求めるものだと言わざるをえない。
また、家庭教育についても、条例の解釈次第では、撤回された「家庭教育支援条例案」と同様の施策を実施する余地がある。そして、「子どもの最善の利益を実現するために、市民の意向を的確に把握し」と条例5条2項でうたいつつも、上述のようなパブリックコメントへの見解を表明するのが、いまの橋下市長なのである。これでは、さまざまな反対の声があるなか可決した条例の趣旨すら反故にされかねない。
正直なところ、このような改革の速度と内容、そして市長サイドのかたくなな姿勢に対応するのは、一苦労である。だがここであきらめずに、子どもの人権が尊重される大阪に近づくよう、出された改革提案の中身を批判的に検証する作業に、今後も力を注ぎたい。
京都精華大学教員 住友剛
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