不登校新聞

396号 2014/10/15

【公開】FS政策③ 首相視察を受けた東京シューレに聞く

2014年10月31日 15:56 by shiko
2014年10月31日 15:56 by shiko


 今回は安倍首相視察を受けた東京シューレ・奥地圭子さんにお話をうかがった。にわかに動き始めたフリースクール等支援策について、また、さまざまな懸念についてどう考えているのかをうかがった。

――最初に安倍首相の視察を受けた経緯と感じたことから教えてください。
 首相がフリースクールに来ることは非常に画期的だと思いました。30年以上、私は子どもが育つ場は学校だけじゃないと言い続け、実際に学校外の居場所をつくり、公的な支援を求めてきました。具体的に政策提言に動き始めたのは2009年の「日本フリースクール大会」の立ち上げ以降ですが、正直「やっとかあ」という思いです。
 
 もちろん視察には驚きましたが、「最近、空気が変わってきたなあ」とも感じていました。というのも今年6月、超党派フリースクール等議員連盟設立総会で「学ぶ場はいろいろ」「子どもの学習権の保障が大事」などの言葉が相次ぎ、以前よりも「支援すべきだ」という空気を感じたからです。
 
 その後、教育再生実行会議の提言、文科省概算要求でのフリースクール支援策の計上、文科省のフリースクール等担当官設置などが相次ぎ、首相視察がありました。私たちのところには最初「政府の高官が視察したい」という打診があり、後日、首相だと聞かされました。理由は「フリースクール等にどんな支援をしたらよいか検討したいため」と。それはいいことだと思い、お引き受けしたんです。
 
 視察時、首相は「生き方、学び方はさまざま」と発言しました。これは私たちの言っていることと同じで「多くの人に伝えたい」との発言もあり、ポーズで言っているとは感じられなかったです。いずれにせよ、これまでの学校のみをよしとする枠組みを外し、学校外を応援しようと思っていること、これを国のトップが子どもたちの前で言ったことは重要で画期的なことです。

――具体的に政策が動きそうななかで、どんな期待・展望を持たれていますか?
 私は展望も期待も持っています。つまりチャンスとして活かしたい、と思います。そもそも、すべての子どもが学ぶ権利を持っているわけです。しかし現状は、学校教育を無理やり子どもに押しつけ、不登校になれば制度の外だから、なんの支援もない。こうしたなかで、不登校の子たちは劣等感・自責感を持たされ、いじめがあっても、学校へ行かねばという状況のなかで、毎年いじめ自殺が起き続ける。理不尽ですし憲法が保障する権利を満たしているとは言えません。本来、どんな状態の人にでも、それを支える社会的仕組みがあって当然なんです。医療や福祉がそうです。やはり「学校外」の育ちを認めず、学校へ戻そうとしてきた、そこが根本の問題です。
 
 問題が明らかであるにもかかわらず、国は変わらなかった。今回は、まったく開かないと思っていた壁に小さな穴が開いたような状態です。穴の向こうは未知数だから、その先の心配や懸念があるかもしれません。けれども、心配や懸念があるからと言って、期待を持って動かなければ子どもに対して申し訳ない。そしてやりようによっては、この国の教育を変えられると思っています。
 
――公的支援が行なわれる際、どこかで「支援の線引き」が予想されます。この点についてはどう考えられていますか?
 それは4年前から「子どもの多様な学びの機会を保障する法律」(※多様な学び保障法を実現する会が提唱する法律案)の議論してきた点です。いま私たちが必要だと思っているのは、フリースクールなどの「機関」を応援する仕組みではなく、個々の子どもの学ぶ権利の保障を求める仕組みにすることだと思います。つまりすべての子の権利保障という視点から法律を制定し、制度を立ち上げていくこと。近い仕組みは民主党政権時代の「子ども手当」でしょう。子ども手当の支援基準は「どんな親か」ではなく「子どもの状態(年齢)」です。個々人を応援する仕組みであれば、機関の規模の大小、理念ではなく、子ども自身のあり方が尊重されます。私たちが目指すのはホームエデュケーションやシュタイナー教育などを含めた多様な学びが保障されることです。

――安倍政権はこれまで教育に市場原理を持ち込もうとしてきました。この延長線上で公的支援がなされれば、居場所が大切にしてきた「ありのままの自分が大切にされる」という部分が失われるのではないか、と懸念されています。
 ありのままの自分を受けいれられる場でなければ意味がありません。もし安倍政権がそうしようといるのであればNOですが、それはまったく現実的な話ではありません。というのも、文科省は一貫して学校復帰政策をとり続けたにも関わらず、不登校の子は競争原理の場から距離をとりました。そういう現状のうえで政府も政策を変えようとしているところだと思います。
 
 また、私たちに寄せられた懸念には「今の政権は国家主義的、新自由主義的、戦争に向かう政権であり、その方向性に巻き込まれる」というものもありました。しかし悪い政府だからと言ってこの機会を逃しては子どもが苦しいままです。政府にとってみれば不登校は取り組まざるを得ない課題なんです。同じような状態なのが貧困問題だと考えています。政府がどこまで貧困について心を砕いているかわかりませんが、政府は貧困問題を無視できないのと似ています。

――今後はどんなことを求めていきますか?
 政府には子ども一人ひとりの学ぶ権利が保障されるような仕組みを求めていきます。同時に私たち自身も主体性を持たなければなりません。懸念や心配事を並べ、なにもしないのではなく、国の主権者として、どういう仕組みならば子どもたちは安心なのか、政権を超えてしっかり作っていくことが大事だと思います。
 
――ありがとうございました。(聞き手・石井志昂)


【編集部より】

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