個人的な話になるが、この夏のちょっとした東北への旅の供は文庫本の宮沢賢治の作品にした。 数年前、岩手から山形に向かう夕暮れ時、山々のくっきりとした美しい稜線がまるで賢治の世界そのものだったことを思い出したからだった。
そんな夏に、『いじめ」が終わるとき』(彩流社・芹沢俊介著)に出会った。個人的な東北旅行の印象が薄れてしまった感があるが、興味深く読んだ。
その第6章では賢治の三作品「猫の事務所」「よだかの星」「銀河鉄道の夜(蠍のエピソード)」が取り上げられていた。前二編について著者は、<現在の「いじめ」を考えるにあたって原型的な手がかりを提供してくれている。とくに「猫の事務所」は、「いじめ」の救いのない具体的な様相を描いていて息苦しいほどのリアリティがある>と述べており、まったく同感である。賢治作品の美しい自然描写とは対照的に、人と人との関係性のなかで起きる「いじめ・いじめられ」という連鎖の輪を、「生きていることの業」とまでとらえ深い洞察が続く。
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