連載「精神現象」
教育再生会議の第二次報告は、「学力向上」「徳育」「大学・大学院再生」の3つの部分から構成されている。
まず、学力向上の方針は、「ゆとり教育」が学力を低下させたという、根拠のない認識に基づいて提起されている。なぜ根拠がないかは、次のような例を見るだけでもあきらかだ。現在の安倍内閣には、国語力が不足している大臣が、少なくとも2人いる。一人は柳沢伯夫厚労相で、国会答弁でみずからそれを認めた。もう一人は、ほかならぬ安倍晋三首相で、加藤紘一議員からそう指摘された(もっとも、安倍首相はのちに、菅直人議員に対し同じ指摘を投げかけた)。彼らはいずれも、ゆとり教育で育った世代ではない。
次に、徳育は、「偉人伝や古典」「芸術・文化・スポーツ活動を通じた感動」によって、実施するらしい。偉人や古典をなめてはいけない。偉人は、つねに時代の徳育に抗って、新しい地平を切り開いてきた。また、古典は、時代の矛盾を鋭敏に察知するなかから生まれた、当時の先端思想にほかならない。芸術・文化も同じだ。一見、徳育と結びつきやすそうなスポーツも、民衆に愛された力道山のプロレスを考えればわかるように、徳育的体制との相克を孕んでいた。
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