いじめの証拠を認めず 

 

 埼玉県北本市の中学1年生・中井佑美さん(当時12歳)が自殺したのはいじめを苦にしたものだとして、遺族が北本市と国を相手取り、損害賠償を求めた控訴審判決が4月25日、東京高裁で言い渡された。設楽隆一裁判長は「自殺につながるいじめはなかった」と判断し、1審に続き、両親の訴えを退けた。両親は5月8日、最高裁に上告した。

 裁判の大きな争点は佑美さんに対するいじめの有無であった。
 
 両親は、佑美さんの遺書、日記、同級生の証言などをもとに、悪口、好きでもない人を黒板に書かれる、靴を隠されるなど、服を黒板消しで汚されるなど、日常的ないじめがあったと主張。裁判所は「一部の出来事が精神的な不快感を与えたことは否めないとしても、自殺の原因になるような『いじめ』があったと認めることは困難」と判断した。
 
 また、佑美さんの自殺後、学校がいじめに関するアンケート調査を行なわず、学校生活アンケートのみを実施。そのアンケートも8割ほどを破棄していたことについて、「合理的な裁量の範囲を逸脱したとは言えない」とし、市の調査義務違反を否定。国の責任については判断を避けた。
 

両親と学校側
事実認定で差異

 
 一審に続き「いじめなし」とした今回の判決。その根拠があいまいである感はぬぐえない。悪口や嫌がらせなどいじめが続いていたことは、同級生の証言、母親の当時のメモ、佑美さんの日記などで見てとれるが、学校側の「その後、解決した」という証言を受け、裁判所は「友人関係の一時的な悪化はあったかもしれないが、いじめはなかった」と判断した。事実認定に基づく根拠の採用に関しては、原告と被告で差異が見られた。
 
 こうした判決を受け、佑美さんの父親・伸二さんは「私たちの主張は証言、証拠があっても認められず、学校の主張は証拠がなくてもすべて認められてしまった」と語った。
 
 北本市いじめ自殺裁判は、初のいじめ自殺国賠訴訟であり、一時は東京高裁が和解勧告をした。和解勧告の内容は明らかになっていないが、いじめ防止に関する内容も盛り込まれていた。しかし、いじめの事実認定などをめぐり北本市の歩み寄りがなく和解に至らなかったという。
 
 今回の判決文には、いじめは「わが国における喫緊の課題」であり、「真摯な取り組みを継続することを願う」という一文が盛り込まれていた。
(石井志昂)

痛みを無視した判決


 いじめの苦しさ、痛みをまったく理解していない判決だった。判決後、代理人の一人・杉浦ひとみ弁護士は「司法ではいじめが裁けないのか」と憤ったが同感である。同級生が法廷で訴えた「佑美ちゃんのつらさをわかってほしい」という声を無視し、行政の顔色をうかがいながら「自殺につながるいじめ」を否定し、一方では世間様の顔色をうかがいながら「いじめは喫緊」などとリップサービスしている。なんの主体性も感じられない判決。約6年間、取材を続けてきたが、佑美さんを思うと残念でならない。
(石井志昂)