不登校新聞

334号(2012.3.15)

講演録「教育を“学ぶ権利”から捉えなおす」喜多明人さん

2013年07月30日 14:50 by kito-shin

子どもの権利研究者 喜多明人さん



 今号は2月4日~5日にかけて行なわれた日本フリースクール大会における基調講演の抄録を掲載する。新法については、本紙308号、またはフリースクール全国ネットワークのホームページから全文が閲覧可能。

「不登校の子どもの権利宣言」は日本初の学習権宣言


 本日のテーマ「日本の教育を"学ぶ権利”から捉えなおす」について大きく4つの柱に分けて、日本の教育現場における子どもの学ぶ権利の現状と問題点、そのうえで求められる取り組みについてお話していきたいと思います。
 
 まずはじめに、「学ぶ権利」の捉えなおしが、いまなぜ必要なのかということです。この問題意識には2009年夏、フリースクールに通う子どもたちが「不登校の子どもの権利宣言」を採択したことが大きく関係しています。宣言文の2条にこう書かれています。「私たちには、学びたいことを自身に合った方法で学ぶ権利がある。学びとは、私たちの意思で知ることであり他者から強制されるものではない。私たちは、生きていく中で多くのことを学んでいる」。これは歴史的にみて、日本初の子どもたちによる学習権宣言だと考えています。この動きと、「(仮称)オルタナティブ教育法」(以下、新法)の法制化、この2つを踏まえていま、学ぶ権利を捉えなおす意義があると感じています。
 
 新法についてですが、「不登校の子どもの権利宣言」に明記された子どもの学ぶ権利を踏まえて法制化を目指すべきだというのが私の考えです。すでにオルタナティブ教育に関する法律が整備されているオランダなど欧米などの取り組みを見ていくと、主として「親の教育選択の自由」を前提に法律が位置づけられています。したがって、新法制定についても同様の手順を踏むことがまっとうであることはたしかですが、やはりそれだけでは不十分です。親の教育選択の自由も大事だけれど、根幹に子どもの学ぶ権利を据えるべきであるというのが私の考えです。
 
 そう考える理由は2つ。一つは子ども自身の意思や要求に応えることが大切であるということ、もう一つが、新法の根拠となる憲法26条の存在です。同条で国民には教育を受ける権利があり、保護者はその保護する子女に「普通教育」を受けさせる義務を負うと書かれています。この「普通教育」という部分がとても重要です。つまり、「学校教育」とはなっていないため、学校教育以外の教育形態も含まれると解釈することは、法律学的に見てもなんら問題ありません。ただし、「だれもが等しく受ける普通教育」という概念と「親の教育選択の自由」は、すぐには結び付きません。両者をつなぐ理論的根拠が必要です。私はそれが子どもの学習権だと考えているのです。
 
 2つ目の柱として、そもそも子どもの学習権とは何なのかということです。端的に言えば、主には裁判規範としてです。1960年代以降、教科書や全国一斉学力テストなど、教育をめぐってさまざまな裁判が起こされてきました。子どもの学習権という言葉や考え方はここで初めて登場します。しかし、それらはえてして、国家の教育権に対抗した教師や国民の教育権を主張する際の理論武装の一つとして編み出されたもので、子どもそのものに焦点を当てて生起したものではなかったのです。つまり、教師が「子どもの学習権を保障するために、独立した教育権を有する」と自己の正当性を裁判官に訴える手段だったのです。こうした学習権を学説として唱える人たちは多くいますが、私はずっと疑問でした。学習権と一口に言っても、子どもがそれを本当に自覚し、実際に行使できているのか。
 
 では、実際に子どもたちは自らの学習権についてどう考えているのか。この点を3つめの柱としてお話したいと思います。2001年、神奈川県川崎市にある3つの公立中学校を対象にアンケート調査を実施しました。そのなかでポイントとなるいくつかの質問とその結果をご紹介したいと思います。

子どもにとって"学習”とは


 「あなたにとって学習することは大切なことだと思いますか」という問いには、「思う」(49・9%)、「少し思う」(29・5%)と、およそ8割の子どもが学習の重要性を認識していることがわかりました。学び方については「みんなと話し合いながら学習したい」(62・5%)というのがもっとも多い回答でした。学ぶペースについて尋ねた項目では、「自分の好きなペースで」(31%)、「個人の学習に合わせた授業(27・7%)」と、半分以上の子どもたちが学ぶ内容を自分もしくはみんなで決めたいという欲求を持っていることが明らかになりました。
 
 ただ、問題は次の質問です。「授業のやり方に不満があるとき、あなたは誰かに相談したことがありますか」という問いに対し、54・9%の子どもが「相談しない」と回答しています。「不満はない」と回答したのは19・3%と2割にすぎませんでした。
 
 この調査結果から分かったのは、子どもたちには学習意欲があり、学習内容を自分で決め、それを自分のペースで学びたいという意思や欲求を持っているということ。その一方で、なにか問題や不満を抱えた場合にまわりの大人に伝えたり、よりよい環境づくりにするための手段がわからずに立ちどまらざるを得ない子どもたちの姿が浮き彫りとなったと思います。それを踏まえると、先ほどの「不登校の子どもの権利宣言」は、いちフリースクールの子どもたちの意見というよりも、多くの子どもたちが本来求めている思いを代弁していると言えるのではないでしょうか。学びたい内容を自分で決め、それを自分のペースで学びたい。これこそまさに学習権行使の基本だと私は思います。

オルタナティブ教育の必要性


 上述した調査では、学校の授業で充足感を得ているかについても聞きました。結果は、「得ている」が7・2%、「少し得ている」が35・4%となりました。学びの重要性を感じている子どもが8割いるなかで、4割しか満足していない。この現状にこそ、オルタナティブ教育が必要とされる理由があると思います。
 
 最後に、現在法制化に向けて取り組んでいる新法に何が必要かという点についてお話したいと思います。大切なことは、子どもの視点に立った「子ども観」に立脚することだと私は考えています。日本の学校教育は「子どもは未成熟な存在であり、発達途上であるという前提でどう教育して伸ばすか」という視点を基盤に据えて始まり、現在にいたっています。そうした従来の子ども観とは異なる視点を打ち出したのが、オルタナティブ教育の特徴であると思います。それは端的にいえば、「力のある存在」という子ども観です。
 
 93歳になる教育学者の太田堯さんが昨年、「かすかな光へ」という映画にご出演され、宣伝チラシにこんな言葉を書かれていました。「エデュケーションを"教育”と訳したのは、誤訳だったかも」と。この指摘はまちがっていないと私も思います。「エデュケーション」という言葉を辞書で引くと、教育という訳語のほか、植物を育てるという意味合いの「栽培する」「耕作する」といった言葉が載っています。植物を育てるときには植物自身が持っている「生きる力」「育つ力」を見極めて各々の持っている力を最大限に引き出すために、水・日光・肥料などが必要になります。つまりはサポート、支援です。子どもにも同じことが言えるのではないでしょうか。「教育」と誤訳したことが「未熟な子どもを枠にはめ、大人が教え育てるべき」という固定的な子ども観を生み、流布し、それを土台に学校教育が実践されてきた。その子ども観の限界がいま、学校現場をはじめ、多くの子ども問題を生んでいるのではないかと私は思います。
 
 子どもの権利条約の「精神的な父」(ユニセフ)であるヤヌシュ・コルチャックは、「子どもはだんだん人間になるのではなく、すでに人間である」と述べています。大人が何かして初めて人間になるのではなく、そもそも人間なのであって、子どもも大人もおたがい人間どうしとして、ともに生きる道を探っていきたいと語りかけています。こうした視点に立って紡がれた子ども観が新しい学習権には必要不可欠だと思います。

充足感を得る学びの場を


 結論として、教育と支援との不可分一体性を前提とし、子どもは力をもった存在であるという子ども観に立って、子どもたち一人ひとりの自己形成力に資する学習権を保障することがいまの社会に求められていると言えます。それは学校教育のみではなしえません。新法制定をきっかけとして、現在の日本の教育法制度を見直し、真に子どもたちが充足感を得られる学び場を社会全体で構築する必要があると考えています。

【プロフィール】
(きた・あきと)1949年生まれ。文学博士(早稲田大学)。専門分野は「教育法学」「子ども支援学」。現在は、早稲田大学文学学術院教授、日本教育法学会事務局長ほか、子どもの権利条約総合研究所代表を務める。おもな著書に『みんなの権利条約』(1997年、草土文化)、『現代学校改革と子どもの参加の権利―子ども参加型学校共同体の確立をめざして』(2004年、学文社)、おもな共著に『ガイドブック教育法』(2009年、三省堂)、『なぜ変える?教育基本法』(2006年、岩波書店)など多数。

■フォーラム 子どもの権利研究2012
日 時 3月17日(土)~18日(日)
    17日/午後1時~午後6時
    18日/午前10時~午後4時
会 場 早稲田大学文学学術院第1会議室
内 容 【17日】①講演「韓国・京畿道<児童・生徒人権条例>の実施と<革新学校づくり>」②報告1「子ども参加による学校づくり」(韓国・南漢山初等学校の実践/北海道・札内北小学校での実践とその後)③報告2「学校における児童・生徒の権利擁護」(児童・生徒人権条例に基づく子どもの権利擁護、川西市における子どもの権利の相談・救済活動と学校)
    【18日】①特別報告「子ども支援と子ども参加の現状とこれから」②基調講演「日本と韓国の地域における子ども支援の取り組み」③報告3「韓国・地域児童センターと子ども支援」④報告「日本と韓国の地域における子ども支援活動の現状と課題
講 師 金相坤さん(韓国・京畿道教育監)喜多明人さん(早稲田大学)、浜田寿美男さん(川西市子どもの人権オンブズパーソン)ほか
参加費 1000円(資料代として)
主 催 子どもの権利条約総合研究所
連絡先 03-3203-4355(FAX兼)

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