今回は、東京大学准教授であり、『「ニート」って言うな!』、などの著者、本田由紀さんへのインタビューを掲載する。従来のニート観への問題点や今後、求められるとり組みなどについてうかがった。
――ニート問題にとり組むきっかけは何だったのでしょうか?
「ニート」という言葉は、04~05年にかけて急速に広がりました。そのきっかけの一つが、「働かない若者『ニート』、10年で1・6倍 就業意欲なく親に”寄生"」という見出しで一面に掲載された、2004年5月17日づけの産経新聞の記事です。それにより、日本のニート概念、つまり「意欲のない若者の増加」「親への寄生」というイメージが色濃く定まってしまった感があります。その後、「ひきこもり」や「パラサイト・シングル」といったニート以前の既存の概念もニートに集約され、あの急速な広まりが生まれました。
そもそも、私自身はそうしたニート観に疑問を抱いていますし、言葉そのものも不適切であると感じています。その根拠となったのが、2005年3月の「青少年の就労に関する研究会」(座長・玄田有史)で行なわれた、「就労構造基本調査」という再集計結果です。私も研究会の委員でした。
反駁への確たるデータ
「就労構造基本調査」では、ニートを2つに大別しています。一つは「働く意欲はあるけれども求職行動をとっていない人たち」と、「まったく働く意欲を持っていない人たち」です。92年、97年、02年の調査結果によると、前者が若干数増えているのに対し、後者の数はほとんど増えていません。働く意欲のない若者は、じつは世間が騒いでいるように増えてはいなかったのです。私自身、「ニートが増えている」という言説に疑問を感じていましたが、このデータにより「やっぱり現状はちがうじゃないか」と。
さらにもう一つ、先の調査では「求職者数」の統計もとられました。じつは急激に増えているのは、この求職者の人たちです。この10年間で2倍以上(約120万人)に達しています。つまり、若者は労働市場におけるポストがない。労働経済学のなかでは、こうした厳しい労働状況だと「退避する労働者」(ディスカレッジド・ワーカー)が増えるという考え方があります。つまり、いまは労働条件が厳しいから、その間に資格を取ったりしながら、状況がよくなるのを待とうとする人たちですね。考えれば当たり前のことですが、こうした人たちも「ニート」に分類されました。
この事実は、若者個人に帰責できる問題ではなく、労働市場の需給関係において問題があるということを示しています。
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