不登校新聞

327号(2011.12.1)

不登校と医療のいまを考える 森英俊さん

2013年05月23日 17:02 by kito-shin
2013年05月23日 17:02 by kito-shin

講演抄録
不登校と医療のいまを考える
登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク

 
 今号は、「登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク」が開催した連続講座「不登校と医療のいまを考える」の講演抄録を掲載する。講師は、小児科医の森英俊さん。森さんは不登校と医療の現状について、「発達障害探し」や「過剰医療による弊害」など、さまざまな観点から警鐘を鳴らしている。


不登校・ひきこもり 医療の介入は必要か


 近年「発達障害」という言葉をよく耳にするようになりました。アスペルガー症候群、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)など、みなさんもどこかで耳にしたことがあるかと思います。そういった傾向を持つ子どもはたしかにいますし、適切なかかわり方は必要です。しかし、学校に適応させるための治療や矯正が必要かといえば、かならずしもそうではないというのが私の考えです。
 
 いま、発達障害については、早期発見・早期対応という流れが全国的に強まっています。私が住む鳥取県では、官民をあげて発達障害を「探す」時代に入っています。県では5歳の子どもを対象とした検診が全市町村で行なわれます。
 
 注目すべきは「健診」ではなく「検診」、つまり特定の疾病や障害の有無に焦点を絞っている点です。大多数の子どもは幼稚園か保育園に通っているので、①コミュニケーションが取れるか、②友だちができるか、③保育士の話を理解しているか、といった日ごろの所見も加味されて検診されます。
 
 社会性、コミュニケーション、イマジネーションという3つがうまくできていない場合、「自閉症スペクトラム」とみなされます。こうした傾向にある子どもがいないか、就学時健診前にスクリーニングにかけるのです。こうした動きは鳥取を含め、5つの都道府県で実施されています。まだ全国的に拡がっていない背景には、実施に際して小児専門の精神科医でなければならないという足かせがあるためです。
 
 5歳時検診に続いて行なわれるのが、就学時健診です。市区町村によっては、知能テストや学力テストを併せて行なうこともあります。ここで、LD(学習障害)の有無をチェックできます。鳥取では5歳時検診と就学時健診を踏まえ、その子に適しているのは普通学級か特別支援学級かを教育委員会が判断するのです。
 
 私自身、こうした取り組みには疑問を抱かざるを得ません。もちろん、教員がマンツーマンでつくといった学習支援が、子どもにとって欠かせない支援となることは事実です。
 
 しかし多くの場合、ありがた迷惑な話になることのほうが多いのではないでしょうか。検診で引っかかれば別室に呼ばれ、「あなたのお子さんに適しているのは特別支援学級です。どうされますか」という話を何度も聞くことになる。そのうちに自分の子どもの将来を悲観して夫婦喧嘩をしたり、別居して別れるなんていうこともある。
 
 鳥取も田舎のほうですから、とくに母親が責められることになります。たとえば「うちの家系にはいままでそんな子はいなかった、あなたが嫁に来たからじゃないか」というように。そうなると、お嫁さんは立つ瀬がないんですね。
 
 しかし、そもそも昔はそんな診断名などなかったわけですから、どこの家系にもいるわけがないんです。親の会などで、母親のそういう苦労を見聞きするたびに考えさせられます。なぜなら、発達障害の早期発見・早期対応とは、効率よく学級運営をするために行なわれているだけのことですから。そして何よりも傷つくのは、子ども自身であることが多いからです。

過剰診察と薬の副作用


 もうひとつ、最近の流れで気になっていることがあります。「過剰診察」です。たとえば、内科で胃薬を2剤出すと、国民保険などの事務所による査定で余剰分が削られます。同じ薬を多く出すと医療機関が損をする仕組みになっているのです。抗生物質などもピロリ菌の治療を除いて、2種類以上出すということはありえません。ですが、精神科だけは保険審査にあたるのが精神科医、つまり同業者です。おたがいにかばいあうため、薬が合算されていても誰も何も言わないという長年の悪習が今日まで続いているのです。
 
 こうした過剰診察が引き起こすのが「過剰投薬」という問題です。1993年、SSRIという新しい抗うつ薬が日本に入ってきました。副作用も少なく、うつを治す薬としてもてはやされました。しかし、少ないといえども副作用はかならずあります。うつというのは、脳内の「セロトニン」という神経伝達物質の異常が原因とされています。かんたんにいえば、正常な人はセロトニンの吸収が100%ですが、うつの人はオーバーしてしまう。これの再吸収を阻害してしてセロトニンを上げようというのがSSRIの働きです。ところが、SSRIを過剰に投与すると脳内のセロトニンが急速に上がってしまう人がいます。そうなると、異常な攻撃性や焦燥感などが一気に高まります。うつ状態の人が突然元気になるというのは、かえって危険な場合も多いのです。だからといって服薬を急にやめると、今度は急激なうつ状態に陥る。これを離脱症状といいます。やめるときは徐々にやめるようにしないといけません。このように脳内の物質をいじくるというのは、とても怖いことなのだと憶えておいてほしいです。


子どもへの過剰投薬
脳をいじくるのは危険

 
 製薬会社の売り上げから算出すると、日本では現在、14人に1人がSSRIを服用していることになる。本当に効果があるならば、うつ病患者は減り、自殺者も減っているはずです。しかし93年以降、減るどころか増え続けているのが現状です。また、アメリカのFDA(食品医療品局)が、18歳以下の子どもにSSRIを使用してはいけないと指摘したことを受けて禁忌となっているにもかかわらずに、平気で処方している精神科医が依然として多いのも事実です。とくに日本の場合、精神科医の多剤大量療法という慣習があり、治療=投薬という根強い考えを持った医者も少なくありません。ある抗不安薬が効かなければ、追加でもうひとつ処方する。同時に出す抗うつ薬の効き目が弱ければ、さらに追加する。そうすると、1+1であったものが2+2で4になる。当然、便秘などの副作用が出るのでそれを押さえ込むためにさらに薬を追加することになる。そうなると7~8種類の薬を飲むことが、さほどめずらしいことではなくなります。
 
 子どもであればふらふらとした状態になり、学校に通うこともしだいにできなくなり家にいるしかなくなる。ところが、心身ともに休養できなければ薬ばかり服用し続けることになり、しだいにボーッとした能面のような顔つきになることがあります。加えて、服用している子どもの自殺率は通常の1・6倍に上がるというデータもあります。医師はこうしたデメリットをきちんと本人と保護者に伝えること、また保護者も処方を鵜呑みにしすぎないことが重要です。過剰診察にはこのほかに、軽い病気であるにもかかわらず大量に薬を処方している、そもそも病気ではないのに薬を処方している、といった問題も起きています。  
 
 じつは、同じ効能の薬を2剤も3剤も出すというのは、医師法違反なんです。しかし上述したように、日本の精神医療ではなぜか大目に見られています。それらを承知したうえで精神科を受診していていただきたいと思います。セカンドオピニオンの意見を聞くというのも一案です。ただしその場合、同じ精神科医ではなく、かかりつけの医師か総合内科をお勧めします。

理想の自分じゃなくてもいい!


 以前、回復期リハビリ科のデイケアをしている医師にお会いしたとき、その方が興味深い話をされていました。人は成長とともにガンにもなるし、脳卒中になる人もいる。だから、ほどほどの自分とどう折り合いをつけていくかが大切だ、と。そこで、「回復の目安は?」とうかがったところ、こんな答えが返ってきました。「理想の自分じゃなくても生きていけるってことじゃないでしょうか」。これには思わず私もうなってしまいましたし、同時に気持ちがとても楽になりました。
 
 私も緑内障を患い、腎臓も摘出するなど、病気をいっぱい抱えています。昔は将来の自分にいろいろなイメージを抱いていましたが、40代、50代にもなるとなかなか思ったとおりに生きられないんですよ。弱い自分を受けいれながら生きていくことも大事です。
 
 周囲の期待に応えて学校へ行く。そして、いい大学に通って、いい会社に勤めて、しあわせな家庭を築く。そんな考え方に縛られるのではなく、「理想の自分でなくても生きていける」という視点はとても楽なことです。どうやったら自分が楽に生きられるかを考えたとき、とてもほっとさせられる言葉でした。不登校になれば親子ともども不安でいっぱいになりますが、不安というのは上述のように発想を少し変えることで解消できるんです。一人で抱えているからこそ大きくなり、うつ状態にもなる。その意味で、親の会などは貴重な社会資源です。不安を共有し、分かち合う。これが不安に対する一番の特効薬だと思います。(抄録)

【Profile】
(もり・ひでとし)
小児科医。自身、不登校経験がある。現在は小児科医のかたわら、鳥取タンポポの会(不登校の子と親の会)の代表世話人として活動。毎年夏に行なわれている全国合宿では、医療に関する分科会の講師を担当している。


『不登校と医療のいまを考える』
登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク編

同ネットワークが2010年10月から今年の3月にかけて、全国10カ所で行なった講演会の内容を収録。講演者は磯村大(精神科医)、内田良子(心理カウンセラー)、西村秀明(臨床心理士)、冨高振一郎(精神科医)、高岡健(精神科医)、石橋良子(小児科医)、山下英三郎(スクールソーシャルワーカー)、小道モコ(自閉症スペクトラム当事者)など。(以上、敬称略)本冊子は無料で配布中。詳細は同ネットワーク(03-3906-5614)までお問い合わせを。

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