不登校新聞

215号 2007/4/1

【公開】GPS携帯保持を義務化/東京都議会に上程

2015年08月05日 14:58 by kito-shin
2015年08月05日 14:58 by kito-shin



 東京都議会に「改正・青少年育成条例」が上程された。今回の改正案では新たに、「18歳以下のGPS機能付き携帯保持の義務化」が盛り込まれている。同条例改正案が可決された場合、保護者は18歳以下の子どもにGPS機能付き携帯電話を保持させる義務を負う。

 東京都議会の与野党超党派議員で結成されている「子どもの安全・安心を考える会」代表・今戸小幸議員は記者会見にて「昨今、子どもをとり巻く環境における安全を考えることは、社会全体でとり組むべき急務である」とした上で、「事件や事故、自殺や家出などの問題に対し、早期に発見・対応するために、円滑な情報通信技術の活用が不可欠である」と述べた。
 
 GPS(Global・ Positioning ・System)とは、人工衛星を利用して、個人が地球上のどこにいるのかを正確に割り出すシステム。もとは軍事用に開発された機能であるが、現在では車のカーナビを はじめ、多方面に用途が広がっている。
 
 総務省の情報通信審議会は2004年、「携帯電話からの緊急通報における発信者位置情報通知機能に係わる技術的条件」の報告書案のなかで「2007年4月以降、携帯電話事業者が新規に提供する第3世代携帯電話端末については、原則としてGPS測位方式による位置情報通知機能に対応する」と報告している。
 
 これを受け、携帯各社は今後新たに発表する携帯電話については原則としてGPS機能を付与する方針だ。
 
 現在、携帯各社でとり組んでいるGPS機能を活用した位置検索サービスでは、「子どもが通学路などの規定ルートから外れる」「電源を切る」「メール送信をする」などの行動をとった場合、即座に保護者の携帯に、住所や位置など子どもの位置情報が通知される。会社間での差異はあるものの、誤差50メートル四方で、位置の特定ができるようになっている。
 
安全? 安心?
 
 こうした動きをふまえ、当事者である子どもたちのなかから、改正に反対する動きが出始めている。改正案に反対する署名活動を行なっているAさんは現在16歳で、フリースクールに通っている。Aさんは1年前より、携帯各社でとり組んでいる位置検索システムを通して1日数回、両親から居場所を特定されてきた。
 
 「最近のGPS機能は精度が高く、正確に位置把握ができます。いつか彼氏とデートなんてことがあったら、すぐに親公認にならざるを得ません。最近は子どもが事件にまき込まれることも少なくないですし、何かあったときのために備えるのはとても大切なことですが、『いつか』のためにこんなにも自由を奪ってよいのでしょうか。子どもの自由を奪うGPS義務化に反対します」として、Aさんは現在、反対署名活動を行なっている。
 
 子どもに道草はいらない?
 
 子どもの「安全・安心」の名のもとに、早期発見・早期対応という予防的見地から子どもの自由意志や活動を束縛するという動きは、いかがなものか。2001年に大阪府内の付属小学校にて発生した連続児童殺傷事件などを契機に、子どもたちの「安全・安心」に対する社会的関心は年々高まっており、各市町村レベルで各小中学校に監視カメラなどを設置するなどの動きは全国的な拡がりを見せている。
 
 これと並行して、昨今問題になっている子どもたちのいじめによる自殺や、子どもが被害者となる事件が多発している社会状況に対して、子どもの言動を大人が「管理」することで、子どもの「安全・安心」の拡充を図ろうというのが、今回の改正案のねらいである。
 
 「東京都青少年の健全な育成に関する条例」では現在、18歳以下の深夜外出禁止などを盛り込むかたちで、子どもの健全な育成と環境づくりを目指している。

 子どもたちの「環境」における「安全・安心」を考えると同時に、子どもたちの「心」の「安全・安心」についても、熟考する必要がある。危険や問題から未然に防止する、「予防」に重きを置いた管理の強化が子どもの健康的で文化的な精神面での発達に寄与するとは考えがたい。
 
 現代社会において、子どもたちが大人から奪われているのは、野球やサッカーが自由にできる「遊び場」や「居場所」だけではない。多くの人、モノに触れるさまざまな「道草」も奪われているのである。子どもの精神的発達において重要なファクターの一つである「道草」を、環境面の安全性を重視する視点でのみ阻害することは、保護者をはじめとする大人の精神的安定に寄与するだけで、子どもの心を無視するものであると言える。
 
 現代社会は、何か事件が起こると、「心のケア」に意識と関心を集中させて「治療」にとり組むかたわら、未然防止に努めるため「早期発見・早期対応」を目指そうとするきらいがある。「不登校」に対する行政のとり組みが典型例である。「予防」という概念が、いかに強迫的に人の自由意志をないがしろにするものになりうるか。今回の動きを踏まえて考える必要がある。(子ども編集部)

※エイプリルフール企画です。

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