不登校新聞

316号(2011.6.15)

メンヘル時代の居場所論 社会問題評論家・芹沢俊介さんに聞く(上)

2014年01月24日 10:32 by kito-shin
2014年01月24日 10:32 by kito-shin

 今回から、評論家の芹沢俊介さんへのインタビューを掲載する。芹沢さんは、さまざまな社会問題を捉えるとき、一貫して、その根底に、人の"いる・ある”を受けとめる土壌がやせてきていることを、指摘してきている。

制御不能のマグマが出ている


――最近は、どこでも"居場所”という言葉を聞くようになりましたが、このニュアンスは、かつてはなかったものだそうですね。
 居場所という言葉が、まったく新しい意味合いで登場してきたのは、80年代後半から90年代にかけてでしょうね。不登校運動で「居場所」という言葉が出てきたのも、そのころですね。それまでは、あえて「居場所」が語られることはなかった。

 その背景には、子どもたちが居場所感をなくしてきたということがある。居場所を定義すれば「安心して安定的に自分が自分であっていい場所」です。そういう場が学校から奪われ、学校が緊張度の高い場になってしまって、それに耐えられない子どもたちが出てきた。そういう子どもたちが、自分でも意図せず問題提起をしたんだと思います。

 それをどう受けとめるかというなかで、親を主体とした動きが出てきた。それが親の会だったり、フリースクールなどの居場所だったわけです。それは運動といえば運動ですが、自然発生的な感じでもあった。意図的に創り出したというよりも、子どもたちに対応しようとして出てきたもののように思います。

――すごく生命力のある運動だった感じがします。

 しかし、そういうものが、ここ何年かのあいだで消えていっているような気がしてしょうがないですね。たとえば、居場所は外にあるものだという感じになっている。学校の外、家庭の外。でも、子どもたちは学校に居場所がない、家に居場所がないと言ってきたわけです。親は、それを聴きとってきて、対応していたように思う。そこで対応してもらえた子たちはよかったと思う。そういうなかでは、発達障害や人格障害は、まだ問題になっていなかったと思うんですね。

親子関係の再構築を


――では、どう捉えていけばよいと?
 もっと手前のプリミティブな問題から考えないといけない状況が生まれてきているのではないでしょうか。発達障害とか人格障害として現象化してきている、その手前。医療的なまなざしで捉えられる以前の問題。自我というものが生まれてくる手前、つまり、子ども期の早期の問題ですね。

 赤ちゃんにとって、親は他者じゃない、環境そのものです。子どもの本質的な必要性として、受けとめられたいという欲求がある。絶対に依存しないと生きていけない時期はあるわけですから、絶対受容が必要な時期はあるんですね。そこがあって、はじめて他者が出てくる。もちろん、「絶対」なんてあり得ないとも言えますから、結果としては適当なものになるでしょう。ただ、姿勢として絶対受容で関わらないといけない時期はある。

 子どもの存在を保証するというのは、あたりまえのことですが、医療や専門性の問題ではない。必要なのは、プリミティブな地平からの親と子の関係の再構築です。そこで受けとめられてこなかった子どもたちが、自分なりに訴え直しをしているように思います。その声を、どう聴きとっていけるのか。それを「障害」という言葉で片づけてしまえば、「脳の問題」ということになって、あとは治療、それも薬しかないということになる。あるいは、心理関係の専門家の登場ということになる。それはちがうだろうと思いますね。関係の再構築への、ていねいな考え方をつくることが必要だと思います。

 それは薬や心理療法を否定しているわけではなくて、あくまで主体は本人と親御さんだということです。薬や心理療法が主になったら、依存をつくるだけです。
この続きは1ヶ月無料のお試し購読すると
読むことができます。

関連記事

「発達障害の子どもの進路を考えるために」親子で知っておきたい3つのこと

625号 2024/5/1

「不登校の子どもが1歩を踏み出すときは?」『不登校新聞』代表が語る心が回復する4つの過程

622号 2024/3/15

「不登校からの高校選びに迷っている親へ」現役校長が語る高校選びの際に役に立つ4つの極意【全文公開】

620号 2024/2/15

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)

625号 2024/5/1

「つらいときは1日ずつ生きればいい」。実業家としてマネジメントやコンサルタント…

624号 2024/4/15

タレント・インフルエンサーとしてメディアやSNSを通して、多くの若者たちの悩み…

623号 2024/4/1

就活の失敗を機に、22歳から3年間ひきこもったという岡本圭太さん。ひきこもりか…