不登校新聞

316号(2011.6.15)

原発社会を考える 第3回

2013年08月05日 14:18 by kito-shin
2013年08月05日 14:18 by kito-shin
 
 前号に引き続き、元理化学研究所研究員・槌田敦さんのインタビューを掲載する。

――食品や水などからの体内被曝についてはどう考えたらいいのでしょうか?
 現段階での問題な放射能物質はセシウムとヨウ素。ヨウ素はすでにだいぶ減少していますが、子どもの場合は甲状腺に被害が出ます。いま心配なのはセシウムです。放射性セシウムは有毒で、できるだけ食べないほうがいい。
 
 しかし、この汚染日本では完全に避けるのは、もはや夢物語でしょう。そこで食品に含まれる放射性カリウムと比較し、セシウム値がその10倍以内ならば食べてもいいんじゃないでしょうか。体内被曝も「被曝10倍則」を応用して考えられます。つまり、これまでの10倍まではガマンする範囲で、100倍以内は考える必要がある。金持ちが、「イヤだ」と思うならば西日本や海外にこっそり逃げればいいんです。しかし、貧乏人には無理な話。あまりにも深刻になったら子どもを疎開させるなどの対策を立てながら、正確な情報のもとに暮らしていくしかないのではと思っています。

 漁業・農業制御大きな問題


――「汚染食品」というレッテルを貼られてしまうことについてはどう思いますか?
 漁業被害も農耕制限も大きな問題です。

 私は農耕制限は反対です。ヨウ素は半減期が短く3カ月で消えてしまいますが、セシウムはいつまでも残ります。しかし、セシウムは水によく溶けるのです。したがって、水田では水の掛け流しを続ければ汚染地ではなくなります。畑作では、雨水だけでは汚染はなかなか消えませんが、作付けすることで取りのぞくことができます。

 その場合、農作物や魚介類は汚染(ベクレル)を測ってもらって、基準以下なら売ることになります。農作物や魚介類がたくさんあるなら、ふつうのガイガーカウンターで汚染の程度を知ることができます。汚染の高い物は東電に買ってもらいましょう。

 低くても売れないものは加工で解決できます。たとえば米は酒にすればいいのです。セシウムは酵母(酒粕)のほうにいきますのでのぞくことができます。それでもだめなら蒸留して焼酎にすることでのぞくこともできます。菜種やひまわりも蒸留して食用油にすれば解決します。

 まずは日本が汚染国だということをはっきり認めることでしょう。そして、先ほど言ったように従来の10倍値までの放射線値はガマンする範囲とする。食べられないほどの汚染された農作物や海産物はどうするか?

 これは東京電力が買いなさい、と。農作物をつくらせない、海産物を獲らせないというのは解決策ではない。きちんと測定すればいいだけの問題ですから。

計画停電は横暴な方法


――一方で電力不足による停電なども問題になっています。
 この解決方法はきわめてかんたんです。電気代の割引をすればいいんです。昨年に比べ、1割の節電をしたらば、電気代を1割引きにし、2割の節電をしたならば2割引きにする。電力の75%程度は産業界が使用しています。むしろ割引きになるとわかれば、産業界では儲けるために本格的な節電を始めるでしょう。経済理念に沿った具体的な対策が必要なのです。少しずつ節電の努力をしていくことで停電は防げると思います。
 
――計画停電によって、まいっている人も多いです。
 あれは東電にとっては計画停電でも、利用者にとっては無計画停電です。「計画停電」などと言って人の計画をメチャクチャにするわけですから。停電のことだけでなく、東電というのは横暴な会社です。

 今回の事故を受け、東電は自分の持っている有価資産を従業員付きで全部売り払って、そのお金を持って事故対策と被害者保障にあてるべきです。

 独立系の電力会社はいっぱいできるのですから、東電が解体されてさまざまな会社が参入すればいいんです。ちなみに省庁で東電の電気を買っているのは防衛庁だけです。東電の電気代が高いからでしょうね。

ほどほどに理想を目指して


――これからのエネルギー供給をどう考えていけばいいのでしょうか?
 まず、いまほどたくさんの電力を使わなければ原発はいりません。一晩中、電気をつけっぱなしにしなくてもいいんじゃないの? というレベルの話だと思うのです。いま代わりになるエネルギーとして自然エネルギー、たとえば太陽光、バイオマスエタノールなども検討されていますがコストが高すぎます。コスト高を税金や高額の買値で補てんしようとしていますが、それでは本末転倒です。エネルギーというのは、それを使えば利益があがるもの。自己増殖するものでなければエネルギーとはいわないのです。それに、天然ガスは各地で大量に産出します。

 しかし、新たな代わりのエネルギーなど考えなくてもいい。莫大な労力をかけてでも代替エネルギーを必要とする社会ではなく、電力エネルギーがそれほど必要ない社会を構築するほうが現実的ではないでしょうか。

 たとえば僕ならば1960年代、若い人ならば90年代、と「目に見える少し昔」を思い出して、その生活を目指すのもいいんじゃないでしょうか。少なくとも「危険の可能性に配慮していたら儲けにならない」という理由で原発の安全性を無視するような傲慢な発想を取りのぞこうと。ほどほどに、なるべく理想から離れずに。そういう方向で変わっていければ、穏やかな社会がつくれるんじゃないかと思います。

――ありがとうございました。(聞き手・伊藤書佳/子ども若者編集部)
 
槌田敦さんの著書

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