不登校新聞

618号 2024/1/15

「失敗しても大丈夫という体験を」子育てで親が一番大事にすべきこと

2024年01月09日 17:30 by kito-shin
2024年01月09日 17:30 by kito-shin

 不登校の子どもを持つ親との面接を長年続けてきた、臨床心理士の田中茂樹さん。たくさんの親の悩みを聞くうち、子どもに対して「親が本当にできること」が見えてきたといいます。2023年10月21日に行なわれた講演、「不登校の親を笑顔にする講演会~不登校は勇気のある行動である~」(主催・全国不登校新聞社)の抄録を掲載します。(編集・遠藤ゆか、山田由佳里)※写真は田中茂樹さん

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 臨床心理士の田中茂樹と申します。認知心理学の研究をしたのち、カウンセラー養成の大学院教員の職を経て、現在は自身でカウンセリングを行ないながら、奈良県で地域医療に携わっています。今日は、不登校の現状から、臨床心理士としての活動や僕自身の子育ての経験を通して感じたことなどをお話ししたいと思います。

 まずは、不登校の現状をお話しします。近年、不登校の子どもの数は増え続けています。不登校が増えているのはなぜなのか。これは、子ども自身の問題や家庭の問題が要因ではありません。「現在の教育の仕組みが、時代の変化に対応できていないこと」が、不登校増加の背景にあると僕は思っています。

 社会の情勢や人の価値観は、時代とともに変化し、多様化してきています。しかし、昔と比べて教育の仕組みには大きな変化が見られません。みんな一律で同じことを学び、一定の能力を求められる。自分の意見を言うよりも、先生の話を黙って静かに聞いて、ただ覚えることを求められる。ほかにも、走らない、じっとしている、大きな声を出したらダメなどと行動を指示されることもあります。学校では、昔からの教育価値観が変わることなく、ずっと用いられているんです。社会では、LGBTQや発達障害など、さまざまな意志や個性が尊重されつつあります。その時代の変化を考えると、学校教育の変わらない一方的な価値観はいずれ通用しなくなると思います。そして、その学校の現実に子どもたちや若者のほうが先に気づき始めている。子どもたちは今、多様な価値観に触れているからこそ、学校という教育システムに辛抱できないのではなく、辛抱しなくなったのではないでしょうか。古いままの教育システムから「イチ抜けた」という現象が、不登校を通してすでに始まっているのではないかと思います。

 また、子どもたちが、ないがしろにされている状況も、不登校増加の要因だと感じています。今の日本では、学校の予算はすくなく、古い校舎のままで、長時間勤務など先生の労働条件もよくありません。うつ病の症状などで、私のところへカウンセリング相談に来る先生も年々増え続けています。子どもや子どもたちを支える大人が大切にされていない環境が、じつはずっと続いているんです。

 そして、この悪い状況に対して、子どもが「NO」と発信している1つのかたち、それが「不登校」だと僕は思います。2022年度の小中学生の不登校が過去最多の29万9048人というニュースもありましたが、このまま子ども・先生・学校ともに状況が改善されないと、50万人、100万人と不登校の子どもの数は増えていくかもしれません。

 今後、学校制度が生き残っていくためには、子どもが通いたくなる、子どもが通って楽しい、そして働いている先生がしんどくならない学校にならないとダメなのではないかと危機感を覚えています。

甘やかしと愛情

 ここからは、お子さんとの向き合い方について、僕なりの経験・観点からお話ししたいと思います。親御さんから「甘やかしと、愛情を注ぐことの境目がわからない」と、ご相談をいただくことがよくあります。

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