不登校新聞

527号 2020/4/1

「学校へ行きたくないときは僕にも」坂上忍が不登校の子に語った本音

2020年03月31日 16:35 by kito-shin

 「自分の悩みを本気で打ち明けてみたい人は誰ですか」。そう聞いてみたら不登校当事者から、こんな答えが返ってきました。「俳優・坂上忍さんです。坂上さんみたいな大人になりたいからです」。彼女の思いをベースに取材依頼したところ、なんと快諾。テレビの生放送直後にお話をうかがいました。(東京編集局・石井志昂)

* * *

――私は「一生に一度でいいから、坂上忍さんに人生相談をしてみたい」と思っていました。私はまわりの人にすぐ流されてしまい、自分の意見も押し殺してしまいます。坂上さんは、批判されるようなことでもブレずに主張されていて、すごく憧れます。どうやったら、坂上さんみたいな大人になれるのでしょうか。(15歳・女性)

 いや、僕みたいにはならないほうがいいと思いますけどね(笑)。僕は気質的にネガティブな人間で、悩んでいた時期もありますよ。

 でもいろいろ経験させてもらって学んだのは、「人に流される」必要はないけど、「人に合わせる」のは絶対に大事だってことです。

 バラエティ番組でもお芝居の仕事でも、現場はすべて共同作業です。僕が出演している『バイキング』という番組には、100人以上のスタッフが働いています。

 その全員が言いたいことを言い合っていたら、収拾がつかなくなりますよね。僕は小さなころからお仕事をさせてもらっていますが、自分の意見を主張しすぎて何度も失敗してきました。

 それこそ、さんざん怒られてきましたよ。それで本音をぶつけるんじゃなくて、「言い方を変えてみよう」とか「こういう順番で伝えるべきだったな」などのことを、たくさんの人から勉強をさせてもらいました。

 一方、僕は今、子役のスクールをやっていて、いろいろな個性をもった子がやって来ます。積極的に前に出てくる子やはっきり意見を言う子は、スクールのなかでも目立ちます。

 しかし「人に合わせる子」はどうしても隠れがちになってしまいます。劇の配役をするとき、積極的な子を主役に選ぶのはかんたんです。

 だけど僕が配役をできるときには、全員が主役になれる場をつくるようにしています。あえて消極的な子をメインに置いたら、自分の主張が出てくるかもしれないし、恥ずかしい思いをしても主役の立場がわかれば、それも経験になるでしょう。

 ふだん目立っている子も、「俺が、俺が」と前に出るだけじゃなくて、誰かをサポートできる力が必要です。

 主役をやりたがっている子にも「脇役ができるようになってください」としっかり伝えています。さまざまな経験をしてこそ、バランスよく成長していけるんじゃないかと思っています。

 相談してくれたあなたは、自分が積極的になれないことを悩んでいるんだよね。だけど番組でもお芝居でも、大勢の人が、それぞれの仕事をしっかり果たしてくれているおかげで成り立っています。

 巨大な柱でも、留めている小さなネジがないと、地震のときに倒れてしまうでしょう。

 大きなことができるのは、あなたみたいに「合わせる」のがうまい人がいてくれるおかげなんです。それって、とても価値のあることだと思いますよ。


子どもからの質問に答える坂上忍さん(右)

――坂上さんは「炎上」がよくニュースになっています。人から批判されたり、炎上したりすることは怖くないんですか?(15歳・女性)

 僕は、ネットの意見をほとんど見ていません。それに「炎上」っていう事態もよくわかっていません(笑)。

 まあ、わからないものを、そのままにしているのが、自分を守る術かもしれません。
 
 僕の発言によって、ときには自分の意に反して誰かを傷つけてしまったり、不快にさせてしまったりもします。

 だけどそのときにはちゃんと謝って、学習すればいいんです。初めの質問への回答にも重なりますが、意見を言うときには「流される」必要はないし、ブレることもありません。

 もっと言えば、僕は、共感する人が3割、共感しない人が7割ぐらいあればいいとも思っています。その3割の共感を得るためには、はっきり言い切らないとダメなんです。

 ふつうは怖くなって手前でやめてしまいますが、そうしたら3割の人の共感すらもなくなってしまう。しっかりと自分が言い切ることで伝わり方もちがってきます。

 ただ、僕はやりすぎて誤解されてしまうことも多いんですが(笑)。それは僕の反省点です。

具体的に動くと

――私は幼いころから女優になりたいと思い、劇団に入っていたこともあります。けれど祖父が亡くなったのをきっかけに、心の病になりました。今は家で安静にしているんですが、自信を失いかけています。「こんな自分が女優になれるのだろうか」と思い、とても不安です。(17歳・女性)

 僕が劇団に入ったのは、祖母の死がきっかけだったらしいんです。自分では覚えていないけど、2歳7カ月のころに、大好きなおばあちゃんが亡くなってから、一言もしゃべらなくなった。

 「これはまずい」と思った母が、近所にあった児童劇団に僕を入れたそうです。劇団で友だちができてからは、すぐにべらべらしゃべるようになったそうですけど。

 僕のスクールでも精神的な病気を抱える子はいます。そうなったら僕はかならず、親御さんと本人と話をします。

 親御さんに聞くのは「ほかの子がどんどん先に進んでいくなかで、立ち止まっている本人はきつい思いをします。それでもいいですか」ということ。そして本人に聞くのは「演じることがどこまで好きなのか」ということです。

 スクールに来るくらいだから、当然やる気はあるでしょう。だけど現実を知って挫折してしまうこともあります。

 今、あなたが女優になりたいって強く思っているなら、あきらめる必要はまったくないです。でもずっと家にこもって悩んでいるだけならば、時間がもったいないとは思います。

 今できることを考えて、具体的な行動をとったほうがいい。そうしたら気持ちは不安なままでも、目の前のことをやっているあいだは不安を忘れていられるでしょう。

 行動をすることで先に進んでいけるかもしれないし、ほかに興味のあるものを見つけられるかもしれない。

 ひとつ言えるのは、苦しい時期を価値のあるものにできるのは、ほかの誰かでもなく自分しかいないということです。

 いつか「あの時の経験があったから、今の私がいる」と思えたら強いよね。僕のスクールでも、失敗こそが成功につなげられるということを教えています。

 成功から学べることって、あんがい少ないものなんですよ。



――私は学校でいじめを受けて、不登校になりました。坂上さんにとって、学校はどんなところでしたか?(17歳・女性)

 僕も、学校へ行きたくないと思うことがいっぱいありました。校内暴力が一番ひどいときだったんです。子役をやっていたので学校へ行くと格好の標的でした。

 学校に着いたら、机に「お前を殺す」って彫刻刀で掘られているんです。だけどその机も、ある日、なくなっていて、人に聞いたら「三階の窓から投げ捨てられた」と。

 15人くらいの不良グループから、袋叩きにあいそうになったこともあります。これって昔の『金八先生』の話じゃなくて、実際にあった話ですからね。

SOSは命がけ

 苦しんでいる子に「SOSを出してほしい」なんて言う人がいますけど、それはかんたんにできないですよ。子どもには子どもの世界があるから、助けを求めるなんて屈辱です。命がけですよ。

 ただ、僕はこの年になってから「逃げなきゃいけないときもある」と思うようになりました。少なくとも、自分一人で全部抱え込まなくていい。

 たいへんなことがあったときに「一生懸命にやる」って、誰にでもできることです。難しいのはうまく「力を抜く」こと。

 野球で言うと、ストレートを投げる人は度胸があるようなイメージがありますよね。でも実際にやると、変化球などの緩い球を投げるほうが怖いんです。

 なぜかっていったら、ボールが遅いから打たれる可能性が高くなる。でも一生懸命にストレートばっかり投げていると、自分も追いつめられていくし、チームメイトも圧迫感を受けてしまう。

 この話はたしか、元野球選手の東尾修さんが言ってたのかな。「直球よりも、チェンジアップを投げるほうがはるかに怖い」って。

 力を抜く技術って、自分をうまくいたわる技術でもあると思うんです。どうやって力を抜くかは、今の僕の課題でもあります。

 スタッフもみんな一生懸命やっているのに、自分が「今よりももっとがんばろう」と考える必要はないと思うようになりました。「力を抜く」のも大事だからです。

 けど、それは僕も全然できていないからね。だから、これは相談の答えじゃなくて、自分に言い聞かせている言葉です(笑)。

――ありがとうございました(聞き手・子ども若者編集部、編集・酒井伸哉、写真・矢部朱希子)

【プロフィール】
(さかがみ・しのぶ)1967年東京都生まれ。3歳から「劇団若草」に所属。72年にドラマ『下町かあさん』でデビュー。現在は俳優業だけでなくテレビ番組のMCなどでも活躍中。

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