加嶋文哉さん
ひさしぶりに例会に参加をしたAさんですが、口数が少なく元気がありません。どことなくつらそうでした。
Aさんの息子さんは、小学校のときは毎日学校に通っていましたが、中学入学後の5月ごろ、「お腹が痛い」と急に学校を休むようになりました。当初は行ったり行かなかったりのくり返しでしたが、だんだんと休む日が増えていきました。中学2年生になってからは学校へまったく行かず、ゲームに夢中になって、昼夜逆転の生活をしていると言うのです。
私はBさんに話をふりました。Bさんの息子は中学生のときに不登校になり、通信制高校に進学したけど途中でやめて、数年間ひきこもったあと、今は社会人として働いています。
「うちも、1日中ゲームばっかりしてました。10時間以上はしていたと思います。あるとき、夫が怒って子どもの部屋に入っていきました。鍵がかかっていたけど、ドアを外して無理やり入っていったの。私は必死で夫を止めました。何か事件が起きるのではないかと怖かったです」と、当時をふり返ってくれました。
ゲームで課金
それを聞いていたAさんが、抑え込んでいたことを口にしてくれました。
「じつは、子どもは課金をしてました。キャッシュカードで引き落とされた金額は数万円。それを知った夫が『学校にも行かないで何を考えている! 今日からゲームは禁止する』と怒ったら、子どもがバットを持ち出してきました。その後も、夜中に部屋から大きな音がしたりして、怖かったです」。
Bさんが「怖いよねえ、よくわかります。あのときは、ゲームが息子をダメにしていると思ってました。昼夜逆転の生活はゲームのせい、目つきがおかしくなるのもゲームのせいだ、と。うちの子どもも、課金は相当してたみたい。お年玉の貯金とかは、ほとんど無くなっていたから。でも、息子が最近教えてくれたの。『あのとき、ゲームができなかったら俺は死んでた』って」と、笑顔で話しました。
Cさんが「今でも大きな音がしたりすると怖くない? うちの子も夜中にキーボードを叩いたりして、そのたびに私はビクッとして耳を両手でふさぎました。わが子のことでも、理解したり受けいれるのに時間はかかります。親だって、そんなにかんたんにはわからないことがありますよ」と、優しく語りかけました。
元当事者に話を聞くと、ゲームは25メートルを泳ぐときのビート板のようなものだと言います。ビート板を取り上げてしまうと溺れるから、ゲームを取り上げないでほしいと言います。それほど大事だとわかっても、子どもがゲームをしているのを毎日見ていると、「このままでよいのか」と不安になる親もいます。
そんなときは、背伸びをしてわかったふりをするのではなく、子どもと向き合ってほしいです。その人なりの理解をしながら、折り合いをつけていただきたいと思います。(加嶋文哉)
【プロフィール】加嶋文哉(かしま・ふみや)
1959年生まれ。小学校教諭を32年間勤め、在職中だった1994年に「星の会」(不登校を考える親の会)を設立。
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