不登校新聞

568号 2021/12/15

わが子は3人中2人が発達障害。学び育つなかで見つけたコツ

2021年12月14日 10:51 by kito-shin

 「子育てするうえで大事なのは、親自身も人間としての幸福感を持つこと」と語るのは、千葉県在住の熊谷亜希子さん。親子がともに豊かになれる教育を求め、たどり着いたのが家庭を拠点にした「ホームエデュケーション」だった。今回はホームエデュケーションを実践するなかで得た気づきや子育てのヒントについてお話をうかがった(写真は熊谷亜希子さんとお子さん)。

* * *

――ホームエデュケーションを始められたきっかけを教えてください。

 一番のきっかけは、第3子の出産です。それまでは第1子を幼稚園まで送り迎えをしていたのですが、第2子と赤ちゃんの面倒を見ながら送り迎えをするのがキツくなってしまって。しだいに、「それならいっそのこと、おうちをベースに子育てがしたい」と考えるようになりました。そのうえで私がホームエデュケーションなどのオルタナティブ教育に興味を持つようになった原体験は、2つあります。

 1つ目は、20代のころの体験です。私は第1子を出産するまで採用コンサルタントとして働いていたのですが、自分が受けてきた教育と現実の社会に大きなギャップを感じていました。というのも、いろいろな業種・業界の人事の方や社長と話をする機会があったのですが、どの方も「勉強できる人間じゃなくて、仕事ができる人間がほしいんだよね」と口をそろえておっしゃるんです。私は学歴主義のもとで育てられてきたけど、これからの時代に必要なのは、偏差値や学歴を追う教育ではない、とそのとき強く感じました。

2つ目は、30歳のときのモンテッソーリ教育(※)との出会いでした。モンテッソーリ教育は、「子どもには自分で自分を教育する、育てる力がある」という「自己教育力」の考えを根底にすえた教育法です。大人が一方的に知識を注ぎ込むやり方ではなく、子どもの環境を整えてあげることで、その子の生まれ持った可能性を伸ばす方針に、「すごくいいなぁ」と感銘を受けたんですね。

 実際に子育てをしていくなかで、わが子たちにどんな大人になってほしいかと考えたときに、「お金を稼ぐことを目的とした生き方ではなく、ひとりの人間として幸福を感じられる心を持ってほしいな」と思ったんです。そうした思いもあって、自分の教育研究も兼ねて、トライしてみようと、2011年からホームエデュケーションを始めました。また、同じ時期には「共育ステーション 地球の家」という小さなオルタナティブスクールの設立準備も始め、すこしずつ活動の輪を広げていきました。

学びのかたち、人それぞれ

――どのようにホームエデュケーションを実践されていますか?

 第1子は年に数回オルタナティブな学び場を体験しながら、公立中学校へ通っています。他方で第2子と第3子は発達の凸凹があるため、それぞれのペースで支援学級へ通いながら、ホームエデュケーションをする日々です。

 自宅では、モンテッソーリ教育の考えを参考にしながらすごしています。日常生活のなかで自立する力を学ぶことが、モンテッソーリ教育の大きな柱の1つなんですね。なので子どもたちには「仕事」として家事を割り振っていて、午前中は仕事と勉強、午後は自由時間にしています。

 このようにひとくちにホームエデュケーションといっても三者三様です。子どもたちそれぞれ、得意・不得意やすごし方もちがいますし、子どもの意志や個性に合ったかたちで学んでいってくれればと思っているので、できるだけその子に寄り添った方法を模索してきました。

 今でこそ、それぞれに合った方法を見つけましたが、最初のころはたいへんでした。たとえば、「朝早くに起きて勉強しようね」と決めていたのですが、まったくうまくいかなくて(笑)。目覚ましをかけるなど、なんとか起こそうと工夫したんですけど、それでも全然ダメだったんです。

 一体どうすればと悩んだこともありましたが、いろんな教育の本を読むうちに、発達に凸凹があると睡眠リズムが不規則な場合もあることがわかったんですね。子どもの努力不足なのではなく、計画自体がよくなかったのだと、そこで気づいたんです。今のやり方にたどり着くまでに、何度もスケジュールを組み直し、試行錯誤を重ねました。


熊谷さんが実践されたスケジュール

――熊谷さんご自身が教育に関心があったとはいえ、ホームエデュケーションを選ぶことに迷いはなかったんですか? 

 第1子のときは、迷いはなかったです。むしろ気持ちが揺らいだのは、第2子のときでした。学校との狭間で、子育てのしかたに悩んだ時期があったんです。

 第2子が、小学校の就学時健康診断へ行ったときのことです。それまでも第2子にはすごく凸凹があるのを感じていましたし、何より母子分離が難しい子でした。そのため、事前に学校に連絡して母親同伴のもと健診を行なったんです。

 しかし、最後の検査はどうしても子ども1人で受けなければいけませんでした。本人はかたくなに拒んだのですが、検査員に無理やり引き離され、教室へ連れて行かれてしまったんです。この経験が第2子にとってはトラウマとなり、それ以来「学校は怖いところ」というイメージがついてしまいました。

 ほどなくして発達障害の診断がつき、人一倍敏感な子(HSC)であることもわかったので、支援学級に入学しました。でも、本人の不安はつのる一方。「学校はイヤだ」と玄関で毎日大泣きの状態でした。しばらくのあいだは私も1日中付き添って登校を続けましたが、みるみるうちに本人の顔は能面のように無表情になり、全身がこわばるようになったんです。

 このころは学校からの善意の登校促しもあって、私自身としても、プレッシャーを感じていました。わが子との向き合い方も手探りの状態だったので、「はたしてこのままホームエデュケーションをしてよいのだろうか。プロの先生にお任せしたほうがよいのかもしれない」と悩みました。

 でも、あるときわが子の表情を見ていて、気づいたんです。あれだけ学校でつらそうだったのに、自分が安心できる場所ですごしているとニコニコとよい表情で笑っていることに。その姿を見たときにハっとして。「あぁ、私は教育のプロじゃないけど、この子のプロになればいい」と、腹をくくれたんです。その後は学校の先生にもお伝えして、ホームエデュケーションを続けながら子どもと深く関わることを決意しました。

子どものため、そう思う前に

――ホームエデュケーションを考えている方に何かアドバイスはありますか。

 子育てをするにあたっては、子どもと同様、親である私も、「ひとりの人間としての幸福感」を大事にしたいと考えています。親が「子どものために」と歯を食いしばりながら子育てするのって、子どもにとっては重圧でしかないと思うんです。

 だからおうちで子どもとずっと向かい合うより、外で仕事をしているほうが、親自身が自分らしく笑顔でいられるのなら、そちらを選んだほうがよいと思います。もしくはほかの人に関わってもらいながら、ホームエデュケーションを取りいれるのもよいでしょう。これという決まりはないですから、それぞれの家庭に合ったかたちで取りいれていくのがよいと思います。

 私の場合は、自分のやりたいことを突き詰めた結果が、ホームエデュケーションだったんですね。もともと子育てや教育の分野に興味があったし、子どもと24時間いっしょでも苦じゃないんです。最初は子どもとの向き合い方に困ったこともあったけど、賑やかさも凸凹もおもしろがっちゃおう、と切り替えてからは、私も楽しんですごしています。

――子どもが不登校のまっただなかだと、どうしても子どものことだけを考えてしまう方も多いんじゃないかと思います。何かコツがあれば、教えてください。

 どんな小さなことでもよいので、「マイルール」を外してみることでしょうか。日常生活のなかに自分を縛りつけているマイルールが、みなさんあると思うんです。私は、「子どもの前で昼寝はできない」というマイルールがありました。どんなに疲れがたまっていても、寝ることができなかったんです。でも、ある日耐えられなくて「お母さん、寝てきます」って言ったら、まだ小さかった第3子が「いってらっしゃい」と見送ってくれたんですよ。「なんだ、眠たくてしょうがないときはお昼寝してもいいんだ」って、新たな気づきでした。


熊谷さんとお子さん

小さなことから肩の荷をおろす

 あとね、子どもたちの生活にも「仕事」を織り込んでいるのは、私の幸せのためにもやっていることをお伝えしたいです(笑)。小さいうちから家事を覚えさせるのは時間も手間もかかるんですけど、子どもの自立にもつながるし、慣れていけば親もどんどん楽になるんです。今週は、子どもたちが4回も夕ごはんをつくってくれました。最高でしょう? だから親自身も楽になれるような小さな取り組みから始めてみて、だんだん大きなことをしていくとよいのかなと思います。

――今、不登校に悩んでいる親御さんに向けて、メッセージはありますか。

 「うちの子は本当に学校が合わないんだ」って、どこで納得するかは家庭ごとにちがうだろうし、腹をくくるタイミングもちがっていてよいと思っています。だって親も不安だし、子どものために必死に背中を押すことだってあるでしょう。親もいろいろがんばっちゃうんだけど、それは腹をくくるための過程だと思うから、それを飛び越えて腹くくりってできないな、と思うんです。

 それと、子どもが「学校へ行く・行かない」は、ちょっと脇に置いて「今」という視点を手放さずにいてほしいですね。将来を考えると「どうしよう」って、不安になっちゃうじゃないですか。そんなときは、今日1日、親子で楽しい会話をできたかなって、思い返すようにしています。みなさんも不安になったときは、いったん立ち止まって、「今」という瞬間をふり返ってみてほしいです。

――ありがとうございました。(聞き手・木原ゆい、編集・赤沼美里)

※モンテッソーリ教育とは、共育家・医師のマリア・モンテッソーリが考案した教育法。子どもの自発性や自主性を尊重した教育で、モンテッソーリ・プログラムを導入する幼稚園や小学校などは100カ国以上にも及ぶ。

「共育ステーション 地球の家」って?

 「共育ステーション 地球の家」は、子どもと大人のための「共育」の場です。プログラムは、下記の通り。単発参加制なので、お好きなプログラムを選んでご参加いただけます。

◎「松戸まなビーバー」(月3回・金曜日)
◎「葛飾まなビーバー」(月4回・火曜日)
 不登園・不登校・ホームエデュケーションの子どもたち+保護者をつなぐ学び場。食育、サイエンス、手仕事などを開催しています。

◎「不登校&ホームエデュケーションお話会」
 不登校・ホームエデュケーション家庭をつなげ、経験を共有し合う親の会です。

 詳細は下記URLをご参照ください。

サイト https://chikyunoie.amebaownd.com/
ブログ https://ameblo.jp/chikyunoie/

【プロフィール】熊谷亜希子(くまがい・あきこ)
千葉県在住。「共育ステーション 地球の家」代表、「多様な学びプロジェクト」スタッフ。2011年からホームエデュケーションを始める。子どもたちが自分らしく居られる場所で学び育つことができるように、「教育選択」という考え方を社会に広げたいという想いで活動中。

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