「高校無償化」が現実のものになりそうである。公立高校の授業料分、年約12万円、私立高校の場合も、公立と同じ12万円は助成し、あとの不足分のうち、一定年収以下の世帯には、計24万円までは助成される。
しかも、定時制、通信制、特別支援学校に通っている子も対象であり、各種学校にあたるインターナショナルスクール、アメリカンスクール、中華学校などの外国人学校も朝鮮学校をのぞいて無償化が適用される。
「日本の社会全体で広く学びを支える」という理念から、民主党がマニフェストの目玉として掲げていたもので、いよいよ実現となったのは喜ばしいことである。
と、書きたいが、そうもいかない。とりわけ、フリースクールや不登校には大きな負の影響も懸念される。
これまでもフリースクールは、学校ではないため、公費支出の対象外であった。青少年の学びを支える、というのなら、フリースクールに通っている子も同様に応援すべきであり、通信制高校の子に支出するなら、在宅で学ぶ子らにも支援してほしい。同じ日本社会の子どもなのに、不公平であるという思いは否めない。
そのうえ、高校の無償化は、高校生とフリースクール生の格差をくっきり広げることになる。いままでも、高校生は通学定期も使え、奨学金制度もあり、美術館や映画館などの入館料も学割がきいた。
しかし、フリースクールで学ぶ子どもたちは、公費支出のらち外というだけではなく、通うのに学割がなく、奨学金もまったくない。親たちは苦しい生活のなかでも、子どもが望むところで成長させてやりたいと、フリースクールにかかる費用を必死で払っている。昨今は、経済不況で「もう通わせられない」という話や、減額要請が増えている。従来でも大きな格差があったうえに、高校のみ無償化では、たまらんなぁ、もともと学校でいじめがあって不登校になっているのに納得いかんなぁ、という気持ちである。
ところが、もっと納得いかないことがある。それは、高校無償化の財源のため、16歳~18歳の子どもがいる家庭について、これまであった税の「特定扶養控除」がガラッと縮小されることである。これまでは、高校修学の応援ということもあっただろう。そして、高校を無償化するなら、この控除はもう必要ない、という発想もあったかもしれない。
高校進学率が98%に達するという現実を考えると、今回の取り組みは高校生年齢に当たる大部分の子どもたちの学びのありように、大きく寄与すると言えるだろう。しかし、だからといって、そのほかの2%の子どもたちの存在をほうっておいてよいものだろうか。フリースクール通学生の親は、扶養控除は減り、親の支払いがあがり、高校無償化の恩恵どころか、家計の負担は増えてしまうのである。その額は、年収250万円の家庭では2万4500円の増、年収600万円の家庭では3万7000円増となっているそうだ。言い替えると、フリースクール生の家庭が払うお金も使って、高校生の家庭を支えるという妙な構造になり、弱い立場の者はますます救われない。
このような負担増は、フリースクールだけにかぎらない。不登校家庭はみな、そうである。また、定時制、通信制、特別支援学級など、授業料が安いところやもともと無償のところ、自治体によって高校授業料の応援があったところなどは、税負担のほうが大きくなる。さすがに、この特定扶養控除縮小問題は、ほうっておけないということから、税制調査会で何らかの手を打つべきという方向での話しあいが出されたようである。
高校無償化は支持したい。が、それによって、高校に行かない子の家庭が増税になるようなことは、一家庭たりともあってはならない。さらに、高校入学後、不登校になった子にも国が授業料を出すのはおかしい、という議論もあるそうだ。若者は教育への権利があり、多様な育ちを社会が応援する、という立場に立っての前向きな具体的結論を切望する。(本紙理事・奥地圭子)
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