前回、治療に使用される覚せい剤の「依存と離脱」についてお話しました。「アンフェタミン」より安全性の高い覚せい剤として登場したのが「リタリン」。「安全な薬」という宣伝と、服用すると高い集中力を得られるという実利が人気を呼び、アメリカでは受験勉強のために服用するケースが続出。ネット取引も横行しました。
そこで、「常識」的な児童精神科医は、原則的に8歳から12歳くらいまでの子どもにかぎって処方してきました。12歳までの子どもには依存や離脱がほとんど起こらないというのが通説だし、7歳以下の子どもへの安全性はまったく確認されていなかったからです。
薬が効くという信仰への"依存”
しかし、この「常識」にも危ういところがあります。日本では、薬剤販売前に薬の安全性を確認することが、子どもでは認められていませんでした。つまり、8歳以上安全というのは、推測と事後確認による経験上の話にすぎません。しかも事後確認というのも、ちゃんとした長期追跡調査は、現在まで皆無。
また、12歳未満で依存を起さないと言えるかどうかにも、不明な点が多い。実際的な話をすれば、上記の「常識」を守る医師が少ないのに対し、「12歳で中止」と言われても、一度使用すると不安でやめられなくなる親子が多い。つまり、実際の病的薬剤依存の以前の問題として、医者も親子も薬が効くという信仰への精神的依存から離れられなくなってしまう。
そこで開発されたのが「コンサータ」。これは「溶けにくいカプセルから薬が少しずつ溶け出していく」デザインなので、ゆっくり吸収されます。たしかに、これで依存や離脱は防げます。でも「それなら安全!」とはいきません。
問題は、中毒。メチルフェニデートの重篤な副作用には、①剥奪性皮膚炎、②狭心症、③悪性症候群(発熱、高度の筋緊張など)、④脳血管障害(血管炎、脳こうそく、脳出血)などがある。症状が出た場合には、服用中止。適切な処置をとらないと、急激に生命が奪われかねない状態です。
この中毒作用がリタリンより恐ろしいのが、コンサータ。吸収がゆるやかなために効果を感じにくく、結果としてリタリンの2倍~3倍量を使ってしまうことになります。また、長時間体内にとどまることにもなり、中毒からの回復が遅れやすい。ですから、急性中毒はともかく、慢性中毒は数倍危険になるのです。さらに、怖いのは、効果を求めてカプセルを砕いて飲むような行為。この危険は、リタリンの比ではありません。
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