ユースリンク・石本宇さん × 柏原章人さんに聞く
「就活失敗で自殺する若者、4年で2・5倍に」「自殺を考えた経験がある20代、28・4%」――。14年連続で自殺者が3万人を超えるいま、若者世代の自殺が大きな注目を集めている。こうしたなか「同じ立場で苦しんでいる人たちを支えたい」と、休学経験を持つ大学生などが中心となって有志団体「ユースリンク」を立ち上げた。活動にかける思いなど、同団体の石本宇さんと柏原章人さんにお話をうかがった。
――「ユースリンク」を立ち上げたきっかけとは?
(石本)自殺対策に取り組んでいるNPO法人「ライフリンク」が企画した「学生意見交換会」がそもそもの始まりです。僕自身、大学を休学した経験があり、同じ学生どうしでつらさを本音で語り合える場がほしかったんです。そうした場を持てないかと提案したのがきっかけです。
(柏原)現在、大学生や大学院生など、およそ15名がかかわっています。おもな活動は毎月開催している「Voice sharing(ヴォイス・シェアリング)」(以下、VS)です。現在、休学している学生や休学を考えている人など、生きづらい思いを抱えている人たちが集まって語り合う場です。また、2月には「いま、休学生があぶない」と題してフォーラムを開催しました。
――フォーラムは盛況だったとうかがいました。
(柏原)本当に人が集まるのか不安でしたが、ふたを開けてみれば93名の参加がありました。なかには関西から来てくれた人もいて、「これはもはや一個人の問題ではない、休学生を孤立させない仕組みをつくらなければ」と感じました。
(石本)フォーラムでは僕らも休学経験者として体験談を話しました。参加者からは「私も休学しています」と、僕たちの話に共感してくれる声が多く寄せられました。
「こんな思いをしているのは僕だけじゃないか」と思い込んでいたのですが、見えないところで悩み、苦しんでいる学生は少なくないんだな、と感じました。
親の期待に応えられず
――お二人とも生きづらさを抱えていたということですが、初めに柏原さんから具体的にお聞かせ願えますか?
(柏原)4人兄弟の長男だった僕は、「長男だからしっかりしろ」という両親のプレッシャーのなかで育ちました。親の期待に応えるべく、高校は地元でも有名な進学校に進みました。人見知りなんですが、明るくないと友だちもできないだろうと思い、学校ではいつも明るくふるまっていました。
しかし、大学受験では親が希望する大学に合格できませんでした。「いままでは地方の進学校にいたからいいけど、これからきびしいぞ」と親に言われた瞬間、これまでの18年間を否定されているような気分になりました。
何とか親を見返そうとがんばったのですが、入学した大学はマンモス校で自分を出せる居場所が見つかりませんでした。6月の終わりごろには体調を崩すことが多くなり、吐き気がとまらなくなりました。なんとか学校にたどり着いてもすぐに吐いてしまうので、学校にも行けなくなりました。吐くのが怖くて食事もとれなくなり、夜も寝つけない。どんどんうつ状態になりました。
それからというもの、毎日死ぬことばかり考えていました。「親の期待に応えられていたら、こんな思いはしなくてすんだのに」と、布団のなかで泣きながら自分を責め続けました。うつがひどくなったため大学を中退し、実家に戻りました。少し休んでから現在は2つ目の大学に通っています。
――なぜ、再入学を考えたのでしょうか?
(柏原)一つは恐怖心です。大学に行かないと、将来の選択肢が狭まってしまうんではないかと不安でした。
もう一つは、自分の経験を何らかのかたちで活かせるのではないかと考えたからです。ぼんやりとですが、同じつらさを抱えている人のために経験者として何かできるのではないかと。本当に苦しかったときは声を上げることもできなかったし、つらい気持ちを吐き出せる場があるなんて思いもしませんでしたから。
――石本さんは?
(石本)僕の大学生活はそれなりに充実していました。就活も順調で、IT企業の内定が決まりました。将来は起業してやろうと強い熱意もあったので、内定先でインターンもしていました。
あるとき、同じインターンの女性から「やりたいことがあるから内定を辞退しようと思うんだけど」と相談を受けました。「一度きりの人生、やりたいことをやったほうがいい」とアドバイスして、とくに引きとめませんでした。
後日、人事の方に呼び出されました。「なぜ、引きとめなかったのか。一人雇うのに、100万円はかかる。君にその責任が取れるのか。彼女が辞めたのは君のせいだ」と言われました。
「こんな会社おかしい」と思えればよかったんですが、僕は完全に真に受けてしまったんです。どんどん気分が落ち込み、精神科のクリニックで、うつと診断されました。結果的に内定は辞退しました。
就活をいちから始める力も残っておらず、卒論をなんとか書き上げて卒業しました。いわゆる新卒フリーターです。それからしばらくして、看護師の母のすすめもあって、看護学科がある大学に再入学しました。
「2回目の大学だから失敗は許されない」と、勉強・実習・バイトをとにかく必死にがんばりました。しだいに睡眠時間が無くなり、体調を崩し、うつを再発しました。
再発してからも大学に通っていましたが、吐き気はとまらないし、緊張で体がこわばって変な汗も出てくる。頓服薬を握りしめ、泣きながら授業を受けている状態でした。
結局、ドクターストップがかかり、半年休学することになりました。柏原くんと同じように、自分を責める毎日でした。最初の大学の友人はみな働いて社会に貢献しているのに、自分は動くことさえできない。「この苦しみから逃れるには死ぬしかない」と本気で考えていました。
――不登校でも、世間一般で言われるレールから外れた自分を責めることは多く、学校へ行っていてもいなくても、若者が感じる生きづらさの根っこは共通しているように感じます。
(柏原)そうだと思います。僕自身、いまもうつとうまく付き合いながらの毎日です。いま、大卒の就職状況は厳しく、学生のうちにインターンや海外留学をするなど、就活戦線を勝ち抜くために、みんな必死です。とても明るかった先輩が就活のなかでどんどん険しい表情になっていくのをみると、不安になります。
でも、僕が少しずつ動けるようになったのは、「不完全な自分でもいいや」って思えるようになったからなんです。
不登校もそうだと思いますが、つらい状況にいる当事者を支える仕組みは「引き上げる支援」しかありません。だから、どんどんつらくなる。厳しい状況だからこそ、僕らがやっている「VS」のように、同じ目線で「ありのままでいいんだ」って感じられる場が必要なんだと思います。
「VS」では、ルールを設けています。相手の話を評価も比較もしないということ。苦しみの程度を話し合うのではなく、つらいと感じている気持ちに寄り添い、それを共有することを大切にしています。その土台があってこそ、「悩んでいるのは一人じゃない」と実感できるんじゃないかと思います。
(石本)僕は「孤独」と「孤立」ってちがうんじゃないかと思うんです。人間ってそもそも「孤独」だと思うんです。でも、それが「孤立」にまでいたってしまうと、行きつく先は自殺しかないんじゃないかと思うんです。
大学生の休学94年から急増
休学生の現状について、福島大学の内田千代子さんが国公立の大学生における休学・退学に関する調査を行なっています。
それによれば、1989年から退学率と休学率とが入れ替わって休学が退学を上まわり、それ以降休学率のほうが高い傾向が続いています。
1994年からは急激に増加し、学生全体の2・41%が休学しています。そして、休学生の自殺率が高いことが有意に認められるという結果が出ています。ただし、これは氷山の一角で僕と同様、休学できずに必死で学校に通っている人も多いのではないかと思います。
――今後の展望は?
(柏原)学校に行っている人でもみんな将来の不安を抱えています。「ユースリンク」の活動を通じて、つらい状況にいる若者が本音を出せる場が社会にあることを広めていくなかで、本音が言いづらい社会の空気感を少しずつ変えていきたいと思います。
(石本)いまの日本って「元気がある人向けの社会」って感じがします。昔は僕もそちら側の人間になろうとしてがんばっていたわけですが、自分がうつになるなんて考えもしませんでした。なってみて分かったのは、「がんばれない人もいる」ということ。僕が敬愛する森毅さんが『元気がなくてもええやんか』という本を出されてますが、まさにその通りだなと(笑)。
そのうえで「がんばらない権利」という視点があっていいのではないかと思います。いろんな生き方があるわけですから、全員が一律にがんばり続ける必要はないですし、そのほうが社会は多様になると思います。
疲れたら「元気ないゾーン」で休んで、休養できたら出かけていく。そんなアクセルとブレーキが両方備わった生き方ができる社会の必要性を、若者自身の活動からつくっていけたらと思います。
――ありがとうございました。(聞き手・小熊広宣)
"Voice Sharing”のご案内
日 程 毎月1回
会 場 千代田区富士見区民館3階和室(東京)
(JR飯田橋駅より徒歩5分)
連絡先 youthlink.vs@gmail.com(石本宇)
※YouthLINKの活動、FacebookとTwitterでもチェックすることができます。
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◇Twitter:「youthlink_voice」
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