文科省は2020年度に不登校だった小中学生が19万6127人にのぼったことを発表しました(※)。不登校は8年連続で増加し、1966年度の統計開始以来、過去最多。過去最多の更新は3年連続です。内訳は小学生が6万3350人で全児童に占める割合は0・8%。中学生が13万2777人で、全生徒に占める割合は4・1%。なぜ不登校は増えたのか。現場や専門家の指摘から、2つの背景が見えてきました。(関連記事1・2/編集長・石井志昂)
* * *
不登校過去最多を受けて現場や専門家からあがってきた背景の1つが「新型コロナウイルスの感染拡大」でした。15年間、中学校教員を務めてきた方は「これほど不安定な子どもたちを見たことがない」と話しています。2020年度は、学校が大きく揺れました。3カ月間の一斉休校中に、学校がどうなるのか、大人にもわからない状況が続きました。休校が明けてからも、部活や修学旅行がなくなるなど、学校行事の多くが中止となりました。中学校教員は「気がつけば、教室には無力感が漂っていました。『がんばっても発揮できる場がない』と思ったのでしょう」と語っています。
コロナ禍のストレスに対して「子どもは言葉にできないまま苦しんでいる」と心療内科医・明橋大二さんは指摘しています。明橋さんによれば「コロナには慣れた」などと子どもは言っていても、内心では苦しんでいることが多いそうです。「大人を心配させたくない」「苦しんでいるのはみんな同じ」という思いがあるからなのでしょう。ところが、ため込んだ思いは突然に爆発し、強迫行為にまで発展する子もいるそうです。これまで診てきた強迫行為は「1日に何度も手洗いをしてしまう」「ずっと部屋のなかを歩きまわってしまう」というもの。表面上の態度とは裏腹に、子どもたちは心の奥底で深刻なストレスを抱えているようです。
もう1つの背景が「生きづらさの低年齢化」です。不登校のなかでも「小学生の不登校」は年々増えており、直近5年間では倍増するなど、増加のペースも早くなっています。福島県会津若松市でフリースクールを開き、不登校の子を支えている江川和弥さん(寺子屋方丈舎)は、現場で「生きづらさの低年齢化」を感じているそうです(参照)。
出席に頼る教育、抜け出せれば
不登校の増加は特定の子どもたちに起きる問題ではなく、コロナ禍や生きづらさの低年齢化など、すべての子どもに対して起きていることが影響しています。それが専門家2名の見立てでした。
一方、不登校の増加に対しては何が求められているのでしょうか。前提として子どもが不登校になるのは自然なことであり、文科省も「不登校の子ども本人には非がない」(『不登校新聞』2017年)という認識を示しています。しかし現在は学校中心の教育制度です。今不登校をしている子は学校で傷つけられたからでしょう。これは苦しいことであり、解決されるべきことです。
現場で支援している江川さんは解決すべき課題の1つに「居場所不足」を挙げ、教育学者・内田良さんは「オンライン授業の整備」を挙げました(参照)。共通点は「選択肢の多様さ」を確保する視点です。オンラインであれ、オフラインであれ、不登校の子どもが受けいれられる場はもっと必要です。将来的には、学校であれ、オンライン授業であれ、フリースクールであれ、いろんな学び方を子どもが行き来できるような仕組みが求められています。そのような多様な選択肢を認めた場合、学校の出席はどうやって取ればいいのか。卒業資格や学習評価は誰がどうするのか。
いろんな混乱が生じそうですが、つまるところ「出席」に依存した教育制度をやめてしまえばいいわけです。ICT技術を使えば、そんなに難しいことではなく、諸外国でも例はあります。「出席」に依存した教育制度をやめれば「不登校」という概念そのものも変わってくるでしょう。不登校で苦しむ人も、ぐっと減ります。そんなことも議論の1つに挙げるべきだと考えています。(了)
※令和2年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」より
読者コメント