不登校新聞

562号 2021/9/15

長引くひきこもりで家計が心配。お金の不安を解消する3ステップ

2021年09月15日 19:21 by shiko

 子どもが長期間ひきこもっていると、気になることの1つにお金の問題があります。子どもがこのまま家にると家計は大丈夫なのかと不安に思う方も多いのではないでしょうか。そこで今回は日野市ひきこもり対策支援事業のオンラインセミナー「ひきこもりとお金の話2~お金を介して家族と会話するヒント~」の抄録を掲載します。講師はファイナンシャルプランナー(以下、FP)の中森順子さん。「お金」を切り口にすると親には何ができるのか。3つのステップにわけて、お話されました。(写真:日野市提供)

* * *

 お金の問題は、誰もが人生で一度は考えるテーマです。人にはそれぞれの状況や段階に応じてライフイベントが発生しますが、その都度何かしらのお金が必要になります。ですから、これからどのような生活をしていきたいのか、そのために、どのようにお金を使っていきたいのかを考えることは重要です。

 一方で、お金のことってセンシティブだし、気軽にふれにくい話題というイメージをお持ちの方も多いですね。ですが、そうした理由からお金の問題を避けてしまうのは、非常にもったいないことです。

漠然とした不安、取り除く道具に

 なぜかといえばお金というのは捉え方を変えれば、家庭の風通しをよくする道具にもなりますし、生きやすくなるための道具にもなるからです。ひきこもりも同じで、お金という切り口から考えることで、将来に対する漠然とした不安が整理されることがあります。

 そのためには、まず親自身が頭のなかにある固定観念をまっさらな状態にして、「暮らし」という視点から考え直してみることが必要です。今回は、親ができる実践を3つのステップに分けてお伝えしていきましょう。

 1つ目のステップは、「自分自身がどのように暮らしたいか」という視点から考えてみることです。ポイントは、金銭的なことはいったん置いておいて、まずはあなた自身がどうしたいのかを考え、書き出してみることです。どういう暮らしが理想か、どういう食生活をしたいか、これから行きたいところ、やりたいことなど「誰が、いつ、何をしたいのか」を書き出してみましょう。その際に「問題となることや不安なこと」「そのためにできること」も併せて書き出すとよいですね。

 また、家族それぞれに本当はどうしてほしいかという正直な思いも、書き出してみましょう。夫にはどうしてほしいのか、子どもにはどうしてほしいのかを思いつくままに書いてみてください。

 たとえば私の場合は「月に1回は公園へ行って、お酒とおつまみを片手に寝転びたい」とか、「料理をつくるのは苦手だから、できれば家族に任せたい」などを挙げます(笑)。そのうえで「家族がイヤがるかもしれない。だから掃除は私ががんばる」など問題に対してできることも書いてみます。あくまで自分自身の整理のためなので、こんな感じで思い思いにアウトプットしてみましょう。

 ここまで整理ができたら、今度は家族それぞれにも理想とする暮らしのイメージを、聞いてみるとよいでしょう。会話をするのがむずかしければ、書き出してもらうのでもよいです。自分が書き出したのと同じように諸条件はいったんおいといて、いつ、どこで、何をしたいのか、それを行なうにはどのような問題や不安があるのか、率直な思いを伝えてもらいます。 

 また、家族間で共有をされる際には、あなたの理想や不安事を無理に共有する必要はありません。「ここまでなら伝えても大丈夫だ」と思えるところだけ、共有すればけっこうです。大事なのは、家族それぞれが考える理想の暮らしや、不安に思っていることを可視化して、身近に感じる将来像を掴むということです。

 一見「こんなこと?」と感じるかもしれませんが、理想の暮らしを書き出すことで、家庭の優先順位やそれに対する壁を認識することができます。そうすれば固定費の見直しや、支出の優先順位を見直すときの軸にもなるでしょう。

子どもの声、汲み取って

 しかし、親自身が生活の見直しをできたとしても、お子さんにとってはハードルが高くて、困ってしまう可能性があります。とくにひきこもり当事者のなかには、「そもそも自分自身、何をしたらいいのかわからない」とおっしゃる方も多いです。

 このような場合、親子ともに「何かをする」ということを壮大に捉えすぎている可能性があります。もしかしたら、ささいなことすぎて言葉に出てこないだけで「今はただリビングでテレビを観たい」などの気持ちが、心の奥底にあるかもしれません。じつはこれも立派な「したいこと」なんですね。リビングでテレビを観るためには、自分の部屋を出て、廊下を通るなどの過程を経て、リビングにたどりつけるわけですよね。理想に向けて細かく想像していくと、たくさんの過程が必要ですし、本人の立場で考えたらたいへんな出来事かもしれません。

 親としては、「そんなことより、外に出たら?」とつい口を挟みたくなることもあります。でも、お子さん自身も同じような葛藤があるはずですし、親の想像以上にできない自分を、すごく責めているかもしれません。

 親としてはもどかしいですし多少の忍耐が必要になりますが、まずは当事者本人の目線に合わせてイメージを共有しましょう。どんなことだってそんな一足飛びにはいきませんから、「今はテレビを観たいんだ」と言われたとしても、ひとまずは、肯定的に受け取ってあげてください。そのうえで「なんの番組が観たいの?」と、具体的な会話を進めるのもいいでしょう。

 もしかしたら有料の動画サービスに加入して映画が観たいかもしれません。本人の希望が具体的に見えてきたら「じゃあ、加入にはこれだけの費用がかかるね」「どういう優先順位でお金を使おうか」という相談に話をつなげることができます。

生きるための家計を把握

 おたがいのイメージをすり合わせられたら、2つ目のステップは「家計の把握」です。仮にお子さん自身の収入がなくても、家族全員の収入や固定費などの支出を共有し合うことから始めるのがいいでしょう。

 日本FP協会のサイトを参照にキャッシュフロー表をつくってみるのも、ひとつの手です。キャッシュフロー表で可視化すると、ライフイベントごとにどれくらいかかるのか、どれくらいかけたいのかが見えてきます。

 家計の把握を行なうのは、「こんなに費用がかかっているのだから働け」と子どもを叱るために行なうものではありません。生きるために必要なお金を把握するためです。家計のなかには「生きるために必要なお金」と「自分が楽しく生きるためのお金」があるという共通認識を持てたらよいと思います。

 3つ目のステップとして、「お子さんが家のなかで収入を得る仕組みづくり」を始めてみるといいと思います。ようするに、おこづかいですね。本人が自分のしたいことを実現するためには、何かとお金が必要ですから、自由に使えるおこづかいはあったほうがいいです。プラスアルファで、本人の可能な範囲で、収入の得方を学べる機会をつくる方法も、セットで考えるとよいでしょう。

 具体的には、おうちのなかで家事手伝いをしてもらって、本人に報酬を渡すという方法がいいと思います。将来的にひとりで暮らすためのお金はもちろん必要ですが、それと同じくらいに「生きる力」をつけることも大事です。良い悪いの話ではないですが、金銭感覚や生活能力があったほうが、まちがいなく楽だからです。もちろん、無理強いはよくありませんから、本人が自信のつくかたちは何かを考えて、一度、家族のなかで話し合ってみるといいかもしれません。

 ちなみに兄弟がいる場合、家庭内の扱いを差別化するのは避けたほうが無難です。たとえば、ひきこもっている長男はおこづかいをやめて、家事手伝いによる成果報酬のみにする。次男は学校へ行っているからおこづかいはあげる。こういうやり方は、子どもの反発を招いてしまいます。やるのであれば、双方と話し合って、納得したうえで行なうようにしましょう。

固定観念を取っ払って

 以上が親に実践してほしい3つのステップでした。3つのステップをふり返ってみますと、ひきこもりの苦しみの根本には、仕事やお金に対する固定観念に縛られているところにあるのかもしれません。日本ではよい学校に進学してよい仕事に就くことが、いまだによいこととされています。とくに親世代はモーレツ社員の時代だった人もおり、働くという尺度ですべてを測ることが、安心につながるのかもしれません。

 ですが今の時代はそれが正しいとはかぎりません。とくにこれからコロナ禍の影響で、在宅勤務が広がるなど働き方も多様化しつつあります。さらに言うと収入を得る方法は、1つだけではありません。働くことが困難なのであれば、社会保障制度を活用するのも、1つの手です。社会保障制度のなかには生活保護もあれば、障害年金や障害者手当というのもあります。せっかく国が提供しているサービスなので、活用しない手はないと思います。

 ですから親自身の物差しで〇×をつけず、まずは相手の状況を把握するために、行動の結果ではなく、その結果までの過程を見てあげること。日常レベルからショートステップで考えていくことが大事なんですね。そう考えると、「子どもや私にとって、それぞれがどういう状態になるのがいいのだろう」と立ちどまって考えるには、とてもいいタイミングなのかな、と思います。

解決が無理なら、相談という手も

 とはいえ、実際には家族で解決したりすることがむずかしいケースもあります。そんなときは、自治体の窓口やFPなど、専門家にぜひ相談してほしいです。

 具体的な方法としては、まず自治体の相談窓口を訪ねて、今の状況で使える制度はないか、と聞いてみるとよいでしょう。ご家族の状況をお聞きしたうえで、使える制度があれば案内してもらえますし、制度を利用するための資料が必要であれば資料作成の手伝いもしてくれます。家計のことでしたらFPに相談するのも手です。

 頭の片隅に置いといてほしいのが、自治体の窓口の相談には誰が来てもよいということです。「生活困窮者」というと、お金がない人のことだと捉えている方も多いですが、それは大きな誤解です。生活困窮者とは「生活に困って窮している人」なので、たとえ資産があろうと何か困りごとがあれば、いつでも相談に来てもいいんです。

 相談員はプロですから、どんな状態でも、さらっと受け取ってくれます。残念ながら相談員と相性が合わない場合もあるかと思いますが、あきらめずに、別の担当者や窓口に相談してみてほしいと思います。

 みなさん、どうしても抱え込みがちですが、今までやったことないことを、ひとりでがんばる必要はありません。自転車に乗る練習をするときって、誰かに支えてもらいますよね。それといっしょです。急に走り出したらケガします。ましてやお金のことなんて、学校でも教わらないことですから。わからないことは誰かに頼んでよい時代です。

 それに困っている声がたくさん集まれば、制度は変わっていきます。困っていると声を上げることも、1つの社会活動なんです。ですから、ぜひあなたの声を聞かせてください。(了/聞き手・日野市ひきこもり相談支援員 岡田伊弘、編集・木原ゆい)



【プロフィール】中森順子(なかもり・じゅんこ)

一般社団法人「行動アシストラボ」代表理事。ファイナンシャルプランナー。家計改善支援員。1997年にFP資格を取得し、2001年に独立。2015年より生協の職員として「生活困窮者自立支援制度(家計改善支援事業)」を受託し、家計管理支援に従事。また、一般社団法人「行動アシストラボ」を設立し、「行動分析学」を用いて、人それぞれの日常生活の質の向上のために行動変容を促すサポートを行なっている。

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