私はこれまで、核や放射能といった問題は扱ってきませんでした。前作の「ヒバクシャ」を撮るきっかけとなったのが、98年イラクに抗ガン剤を運んでいる女性と出会ったことからです。
そのときは、まだ映画をつくろうとしたのではなく、NHK番組の取材として、イラクを取材しました。
イラクでは白血病などはもちろんのこと、経済制裁のために医療は壊滅的な状態でした。WHOによると「60万人の子どもが経済制裁が原因で死亡した」と発表しました。
しかし、日本のメディアはそうしたことに触れず、大量破壊兵器やフセインの独裁政権ばかりがくり返し報道していました。
帰国後、私がつくった映像は、NHKから「アメリカの見解とあまりにもちがう」「反米的で放送できない」というようなことを言われました。
仕方がないので、いろいろと妥協しながら、なんとか医療の現状と劣化ウラン弾についてだけは放送できたと思っています。
しかし、一番大事なものをマスメディアでは伝えられませんでした。その思いから「ヒバクシャ」を制作しました。
イラクに行く前、「劣化ウラン弾などの放射能兵器を使うアメリカやイギリス政府が悪い」と思っていたんです。
劣化ウラン弾の原料はアメリカの濃縮ウラン工場のゴミです。日本は54基もの原発を保有していて、その燃料となる多くの使用済核燃料をアメリカから輸入しています。日本の原発や私たちにも加害性があることがわかりました。
劣化ウラン弾が撃ち込まれると、大地は汚染され、その場から逃れられない人間を蝕みます。
「原発は核の平和利用」と言いながら、そのゴミから産まれた劣化ウラン弾が、91年の湾岸戦争に300トン、03年からのイラク戦争に2000トンも撃ち込まれました。取り返しがつかないことです。
そして、劣化ウラン弾とはちがったかたちで再利用されるゴミ、使用済み核燃料(濃縮ウラン)の行き先が六ヶ所村です。
日本の原発から出された使用済み核燃料のほとんどが六ヶ所村に運ばれます。使用済み核燃料とは、原発で燃やされた濃縮ウランのことで、燃やされたことで放射能毒性は1億倍にもなります。
とてつもなく毒性の強い使用済み核燃料を扱う再処理工場では、原発から出される1年分の放射能を一日で出してしまうと言われています。
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