不登校新聞

501号 2019/3/1

「PTAは辞められます」専門家が教える穏便な退会の仕方

2019年02月22日 15:39 by kito-shin
2019年02月22日 15:39 by kito-shin



 子どもが学校へ行かなくなったら、PTAとはどう関わっていけばいいのか。そもそも、PTAとはやめられるものなのだろうか。PTAを長く取材してきた大塚玲子さんに「不登校とPTA問題」を執筆いただいた。

 * * *

 新学期が近い今、お子さんが不登校の親御さんのなかにも「PTAのことが気がかりだ」という人は多いでしょう。PTAは本当は入りたい人が入り、活動したい人がする任意の団体・活動ですが、現状は多くの場合「母親の義務」のように思われています。

 ご存知のとおり、委員決めは、しばしばジャンケンやくじびきで行なわれ、泣く人まで出ることも。「やらないことは許されない」という空気が濃く漂い、子どもが学校に行っていようがいまいが関係なく、母親たちは一律に参加を求められます(現状PTAは「父親の義務」とは思われていません。われわれの脳内でPTAは家事育児と同様「女の仕事」に分類されているようです)。

 このような状況に不満を感じる人が多いのは当然のこと。何の法的な根拠もなく、また本人の状況や意志にすら関係なく、会費の支払いや活動参加を強制されるのです。疑問を感じないほうが、どうかしています。

 しかも子どもが学校へ行っていない保護者からしてみれば、子どもを家に残して自分だけが登校を求められるわけですから、理不尽さが一層際立ちます。

 なかには毎日、家で元気のないわが子の姿を見ており、「同世代の元気な子どもたちを目にするだけで涙が出る」という人もいるのに、そんな人さえ「欠席者裁判(集まりを休んだ人に勝手に役を割りふること)」で委員を押し付けられ、苦しんでいることもあります。

自分の意志で選ぶこと

 ただ一方では、子どもが不登校でもPTA活動を熱心にやる保護者も意外といます。本部役員(会長や副会長、書記・会計など)や委員長など、みんなが敬遠する役まわりを進んで引き受けているケースも、じつはときどき見かけるものです。

 これはいったい、なぜなのか。

 人にもよるでしょうが、こういった親御さんには、自分が学校と接点を持つことで少しでもわが子を守りたい気持ちもあるようです。

 たとえば子どもが学校でいじめを受けた親御さんなら、直接先生とかかわる機会を増やすことで、いじめが起きた原因を知りたい、可能なら取りのぞきたいという思い(現実にはそこまではかなわないことが多いと思うのですが)。学校に行った際に子どもが不快な思いをしないよう、少しでも先生を味方につけておきたいという願い。そんな思惑があったりします。

 なお、親御さんがPTA役員になったあとから、子どもが不登校になるケースも、割合あるように思います。

 このように、「子どもが不登校の親」のなかにも、PTAに関わりたい人もいれば、関わりたくない人もいます。どちらの考えも、否定されるべきものではないでしょう。

なぜ参加一択?

 必要なのは、それぞれの親が「自分の意志」でPTAに参加するかどうかを選べることではないかと思います。現状のPTAは「参加一択」の仕組みで、不参加を選びづらいことが多いため、「関わりたくない人」は、とくにいやな思いをしがちです(子どもにとっての学校といっしょですね)。

 なかには「PTAをやめる」というと「運動会のテントにお子さんを入れてあげませんよ」などと言われることもあり、やめづらいのです。

 この点が改善して、本当に加入非加入を選べるような団体になれば、あらゆる母親がラクになるはず――。そう思って、PTAを本来の任意のかたちにするべく情報発信を続けているのですが。全国のPTAが変わるのにはまだ時間がかかりそうです。


大塚玲子・PTAジャーナリスト

やりたくなければ、やってはいけない

 そこで今回声を大にしてお伝えしたいのが、「お母さんたち、やりたくないことをやるのはやめようよ。やりたくないことは、やっちゃダメなんだよ」というメッセージです。

 何を突然言い出すか、と思われたかもしれませんが、今回いただいた「不登校とPTA」というお題を考えると、どうしてもこれを言いたいと感じます。

 というのは、不登校もPTAも「母親たちがやりたくないことをやっている」ために問題がこじれている気がするのです。もしお母さんたちが「本当はやりたくないこと」からいっさい手をひけば、PTA問題も不登校問題も、一気に解消する、またはかなり小さくなるんじゃないかと思うのです。

 人はやりたくないことをやっているとき、つらいし不機嫌になるし、「やらない人」に腹が立つものです。なぜなら自分はガマンしてやっているから。

 筆者がそれを実感したのは、子どもが保育園のときです。卒園の係決めの際、自分から手を挙げてある役を引き受けたのですが、やってみたら予想外にたいへんで、友人やパートナーにグチりまくりました。やらない人にも腹を立てていました。なんとみっともないことか。われながらそんな自分を「バカだなぁ」と思いました。

 たぶん心の底では「やりたい」と思っておらず、「やらなければいけない」という義務感(それと「ええカッコしい」)でやっていたのです。だからグチが出たし、やらない人に苛立ちを感じたのでしょう。

 「やりたくないことを引き受けてはいけなかった」――このとき、そう深く反省しました。やりたくないことをやっても、誰も幸せにならないのです。しかもじつは、やらなくても誰も困りません。

 筆者が引き受けたのは「卒園DVDの制作係(業者とのやりとり)」でしたが、こういうものはあってもなくてもいいものです。グチを言って周囲を不快にし、やらない人にイラついてまで引き受けるようなものでは、まったくありませんでした。

うず高く詰みあがる…

 見まわせば、日本の母親たちのまわりには、そういった「本当はやらなくてもいいこと」があふれかえっていると感じます。

 夕飯はなるべく手作りで、買ってきたお惣菜ばかりではいけない。見栄えのいいお弁当をつくらなければいけない。子どもに汚れた服を着せていてはいけない。ママ友をつくらなくてはいけない。家はきれいにしておかなければいけない。子どもにゲームをさせっぱなしにしてはいけない。虫歯にさせてはいけない。PTA活動に参加しなければいけない。毎日子どもを学校へ行かせなければいけない。

 その他、父親には求められない「やらなければいけないこと」がうず高く積み上げられているのです。しかもそれらの大半は、じつはやめても問題ないものです。

 夫や周囲の批判(の目)さえ気にしなければ、そして一番は、自分のなかにある「母親はこうあらねばならない」という思い込みさえ捨てられれば、やらなくてすむことばかり。

 母親たちがいま「やらねばならぬ」と信じている、でもやめてもじつはなんら差し支えないあれこれを、一つひとつじっくり見つめて、「やりたくなければ、やらない」と決め、キッパリと手を引くこと。もしそれができたら、子どもも絶対ラクになると思うのです。

 べつにそれで子どもが学校へ行くようになるわけではないと思うのですが、少なくとも、子どもたちが感じている苦しさはそれだけでだいぶ減る気がします。不登校の子どもたちは、お母さんの苦しさを肩代わりしているように思えるからです。

PTAの具体的なやめ方

 とはいえ、いきなり「やりたくないことを全部やめよう」というのも無理な話でしょう。そこでまずはPTAから、もしやりたくないなら、やめてみてはいかがでしょうか。

 具体的にはどうすればいいのか。現状のPTAは多くの場合、子どもが学校に入学すると保護者を勝手に会員にしてしまうので(これ、個人情報の無断流用になるので本当はダメなんです)、「入らない」とか「やめる」という選択肢が用意されていません。「やめられないのでは?」と思わせるような仕組みになっています。

 でも大丈夫、やめることはできます。おすすめは、校長先生(とPTA会長さん)に「やめます」と伝えること。口頭でもかまいませんが、話がこじれないようにするには、お手紙のほうが安心でしょうか。

 もし役員さんなどから「やめる前に話し合いましょう!」などと求められても、無理に応じる必要はありません。そもそも加入意思も確認せず会員にすることがまちがっているのです。

 冒頭に「PTAをやめると運動会のテントに入れてあげないと言われる」などのケースがあると書きましたが、かならずトラブルが起きるわけではありません。多くの場合は、校長が「子どもは同様に扱うように」と指導して落ち着くので、あまりご心配なく。

 あるいは「加入したままでいいから、委員や役員になることだけは避けたい」というのであれば、そのように校長先生に伝えてもいいと思います。「もし活動を強いられるなら退会する」と言っておけば、たいがいの校長先生は退会者を増やしたくないので、裏でうまくとりはからってくれるはずです。

 「いや、PTAのやり方には納得いかないけれど、子どもの学校で波風を立たせたくない」というのであれば、もちろん加入や活動を続けるのもいいと思います。ただしそれは、誰かに押し付けられたのではなく、「自分が選択した」ということをお忘れなく。

 厳しいかもしれませんが、それを忘れてしまうと誰も幸せになりません。そして「やる」と決めたなら、どうか楽しんでやってもらえたらと思います。誰かが何かをイヤイヤやる姿は、周囲を不快にするだけです。

 やめようと思えばいつでもやめられる。それがわかっているだけでも、PTAの憂うつは、だいぶ軽くなるのではないかと思います。(大塚玲子・PTAジャーナリスト)


出版社: 太郎次郎社エディタス 大塚 玲子 (著)

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