不登校新聞

329号(2012.1.1)

「子ども・若者にとって、この1年は」2011

2013年05月23日 15:01 by kito-shin



顕著な権力統制と荒廃


 わが国観測史上最大規模マグニチュード9・0を記録した大地震と大津波で1万5842人が亡くなり、行方不明は3485人(警視庁11年12月4日まとめ)という。3・11はいろいろな意味で歴史的転換点となるだろう。福島原発事故はその実態が明らかになるにつれ、自然災害による不可抗力な事故ではなく、人災であることがわかり、原発の安全性の虚構が白日のもとにあばかれていく。11年を表す一語に「絆」が選ばれた。生死をわける悲しみのなかで、人々はいのちをつなぎあう絆を実感したのだ。いまこそ復興、放射能被害をはじめ、さまざまな問題は、いのちの側に立つ視点を求めている。本紙の創刊からの理念はいのちの側に立つこと。その視点から、2011年の子どもたちに関わることをふり返ってみる。 (本紙理事・多田元)

不登校・教育をめぐって


 文科省10年度学校基本調査は、震災の影響で東北3県をのぞく暫定値で公表され、不登校は小中学校で11万4971人。09年度調査と比較して東北3県をのぞく数字は2343人減となる。

 10年調査は高校無償化初年度でもある。高校の不登校は5万3084人と前年比2001人増となった。

 一方、学校教育現場の権力的統制が司法の場で追認されたことは重要な問題だ。公立学校の卒業式などの行事で日の丸に向かって起立、君が代斉唱を校長が教職員に対して命じることは、憲法の思想・良心の自由を侵害しないという最高裁の合憲判断が6月6日判決をはじめとして相次いで示された。

 この問題は、学校現場の教職員に対する権力的統制を象徴するもので、それは通学する子どもに対する統制につながる。最高裁判決には学ぶ主体は子どもという視点が欠落している。同判決には、反対の少数意見として、宮川光治判事の「公立学校はさまざまな価値観をもつ子どもが存在していい場であるから、教師は子どもの多様な価値に対して開かれた存在であることを憲法上求められており、精神的自由に関する問題を多数者の観点からのみ考えるべきではない」との意見が表明された。また、須藤正彦判事は補足意見で、起立斉唱強制が熱意と意欲に満ちた教師による生き生きとした教育の生命を失わせることに懸念を示した。

体罰禁止も覆す大阪の動き


 この最高裁判例と同じ潮流にある動きとして、学校教育現場への知事など行政の介入を定める大阪府教育基本条例案が府議会に提出された。児童生徒への指導として物理的力(有形力)を使って押さえることも認めており、学校教育法の体罰禁止規定に反するという疑問も生じている(本紙328号参照)。この条例案を推進する維新の会から11月選挙で府知事、大阪市長が当選し、条例は成立する可能性が高い。

 09年度全国公立小中高校、特別支援学校教職員の精神疾患(うつ病など)による休職は5458人にのぼることが文科省調査でわかった(本紙306号参照)。荒廃が進む学校の一面を示す数字だ。

 不登校の子どもたちに目を転じると、7月「不登校の子どもの権利宣言(追補版)」を、「不登校の子どもの権利宣言を広げるネットワーク」が発表した。学ぶ権利、安心して休む権利、子どもが対等な人格として認められる権利、子どもの権利を知る権利などのそれぞれの条文に、子どもの思いが付け加えられている(本紙322号参照)。これは大人が子どもを大切にする態度を学ぶテキストとも言える。

  NPO法人フリースクール全国ネットワークは2月「オルタナティブ教育法骨子案」をまとめ、発表した。憲法26条の義務教育としての普通教育にオルタナティブ教育を含めることやオルタナティブ教育機関(ホームエデュケーションの家庭を含める)への公費助成やオルタナティブ教育の質確保などを提起している。

  また、同ネットワークは3月、子どもと貧困の問題に関して、高校無償化の財源確保のために16歳から18歳の特定扶養控除が縮小されることにより、学校へ行かない子どもの家庭に負担増の格差が生じることの是正を政府に求める要望書を出した。

少年非行と厳罰化


  2月に発表された警察庁まとめでは、少年非行は03年から7年連続減少を続けている。凶悪犯の少年非行も同様だった(本紙315号参照)。11年司法統計によれば、09年に家庭裁判所に殺人で送致された少年は39人であり、過去10年で最低を記録している。

犯行時少年の3人に死刑


 少年非行の減少傾向にもかかわらず、少年司法の厳罰化の傾向はむしろ顕著になっている。3・11東日本大震災の前日である3月10日、最高裁は木曽川・長良川連続殺人事件の被告(当時少年)3人に対する死刑を確定させる判決をした。複数の少年がまとめて死刑判決を受けた初めての例。

 少年が刑事裁判の裁判員裁判を受けた事件は09年から34件。被虐待の生育史を考慮せず、19歳少年に死刑を言い渡した仙台地裁の判決(控訴中)など、厳罰化の傾向は明確である。少年法55条により、保護処分のため家庭裁判所へ移送した事例は1件にとどまる。

虐待をめぐる動き


  厚労省の統計によると、2010年に全国の児童相談所が対応した児童虐待相談件数は5万5152件。統計を開始した90年の1101件に比べると50倍。初めての5万件突破だった。しかも、震災の影響で宮城、福島のデータは含まれていない。都道府県別にみると大阪、神奈川など都市部の増加が目立つ。増加理由を厚労省は「虐待の認知度が高まった影響」とコメントしているが、不況、失職などによる格差、貧困、家族の孤立化という社会的背景要因も考慮する必要があるだろう。

 2011年も児童相談所が虐待を認知していながら、虐待死に至ってしまった事件が10月の名古屋市の中2男子虐待死のほか全国で相次いだ。真に子どもの視点に立って、子どもの安全を守るために、たんに児童相談所に任せるだけではなく、子どもを支援し、かつ、親の子育てを支援する地域の市民的なネットワーク構築など幅広い虐待防止の施策が求められている。

 6月には、東日本大震災により親を失った子どもたちのための未成年後見制度の拡充などを視野に含めた民法改正が行なわれた。親権に関しても重要な改正がなされ、子どもの虐待に関しても親権喪失の要件をゆるやかにし、2年を限度に親権を一時停止する制度も新設された。子育てを適切にできない親に一定期間子どもと離れて休む機会を与え、親子双方に対する適切な援助により親子の関係修復をしていく運用も可能になる。改正規定は12年4月から施行される。  わが国では、親の虐待などによって家庭にも安心できる居場所を失った子どもを援助する社会的養護は、乳児院(2歳まで)や児童養護施設などの施設養護が中心で、家庭的環境を保障する里親などの家庭的養護の占める割合が非常に小さいのが現状であり、国連子どもの権利委員会からも問題を指摘されている。

社会的養護の新しい試みも


 2011年は、子どもの人権問題に取り組む弁護士が子どものシェルターや自立援助ホームの設立、運営にかかわり、子どものパートナーとして支援する新しいタイプの社会的養護の動きが活発になった。子どものシェルターは「カリヨン子どもセンター」(東京)、「子どもセンターてんぽ」(神奈川)、「子どもセンターパオ」(愛知)、「子どもシェルターモモ」(岡山)、「ピピオ子どもセンター」(広島)、「ロージーベル」(宮城)があり、来年には「子どもセンターののさん」(京都)、「そだちの樹」(福岡)が開始され、子どものシェルター全国ネットワークが結成された。

 また、愛知の子どもセンターパオは11月、就労を条件としないで、家庭的環境での自由な学びを保障して自立生活援助を行なうステップハウスとして自立援助ホーム「ぴあ・かもみーる」を開設し、愛知県の認可を得た。これも社会的養護の新たな試みとなる。

 他方で、不登校、ひきこもり、家庭内暴力を直すと称して、親の依頼によって、子どもの意思に反しても施設に収容し、公然と子どもに対する暴力を肯定している戸塚ヨットスクール(愛知県)を賛美する映画「スパルタの海」が公開されるなど、子どもへの暴力肯定の意識は社会にいまだ根強く存在する。12月20日には、この施設に収容されていた「ひきこもり」とされる30歳の男性が施設建物から飛び降り自殺をはかり重傷を負った事件が報じられた。男性がどのようにして収容されたのかが問題であろう。

1月

■韓国籍の父なじられ同級生を切りつけ 中1男子/神奈川
■精神疾患による教員休職が17年連続過去最多更新/文科省

2月

■子ども条例案、市民からの反対で提案断念/広島市
■10数年ひきこもりの50歳男性、母親をナタで殺害/千葉
■「オルタナティブ教育法」骨子案発表/フリースクール全国ネットワーク

3月

■桐生小6女児いじめ自殺裁判開始/前橋地裁
■自殺者13年連続3万人超/警察庁
■不登校世帯の増税問題、要望書提出/フリースクール全国ネットワーク
■「連続リンチ殺人事件」最高裁判決、当時少年の3人が死刑確定
■東日本大震災発生、大津波、原発事故も併発。死者・不明2万人。

4月

■東日本大震災で「非正規切り」が深刻化/派遣ユニオン
■「生活保護再申請拒否」裁判、原告が勝訴/北九州市
■福島からの避難小学生に「放射能うつる」といじめ/千葉

5月

■"日の丸・君が代”起立斉唱命令を「合憲判決」/最高裁
■高1男子生徒、校舎から転落自殺/大分
■いじめ人権侵犯事件1.5倍増/法務省
■民法改正成立、親権2年停止を可能に/参議院

6月

■少年犯罪7年連続減/警察庁

7月

■中2男子マンションから転落死/大阪
■10代の失業率10%/内閣府
■全国初の子ども"ステップハウス”設立/愛知
■名古屋いじめ自殺裁判"いじめの傷、重く認定”/名古屋地裁
■子どもシェルター全国ネットワーク発足
■不登校の子どもの権利宣言追補版を発表/「不登校の子どもの権利宣言」を広めるネットワーク

8月

■不登校11万4971人、東北3県のぞく暫定値/文科省
■児童虐待、初の5万件突破/厚労省
■子どもが求めたのは「話し相手」/チャイルドライン年次報告
■NPO税制改正法案成立、寄付が税控除に/衆参議院
■8月25日、高1女子飛び降り自殺、ブログで中傷も/大分県
■8月30日、中2男子、教師の前で飛び降り自殺/札幌市

9月

■始業式日にマンションから中1女子飛び降り自殺/東京
■始業式日に高1男子、線路に飛び込み自殺/東京
■始業式日に中2女子、線路に飛び込み自殺/鹿児島
■始業式翌日、マンションから高2男子飛び降り自殺/三重
■不登校の長男を母親が木刀で殴打/京都
■13年ぶりに「不登校、その後」調査へ/文科省
■非正規社員39%に/厚労省

10月

■中2男子虐待死、児童相談所が事前に虐待把握も/愛知
■中2男子いじめ自殺、死んだハチを食べさせられ/滋賀
■中1男子マンションから転落死/大阪
■高1男子、川に突き落とされ水死/茨城
■概算要求・税負担増問題、不就学世帯のみ対策なし/文科省
■概算要求・ニート対策に20億円/厚労省

11月

■子どものパートナー宣言採択/中部弁護士連合会
■戸塚ヨット映画、上映開始
■中2男子自宅で首つり、いじめを教師に相談も/富山

12月

■高2男子が女子生徒らを刃物で切りつけ/千葉、埼玉
■女性2人殺害、27歳ひきこもり男性逮捕/長崎
■教育バウチャー実現へ、株式会社立の私立学校ら17法人が再始動

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