今回、取材をしたのは、作曲家・林光さん。林さんは、「原爆小景」をはじめ平和、労働、子ども問題なども、音楽活動のなかで、取り上げられている。取材当日は、林さんの作詞、作曲した「こどものたたかい」シリーズに感銘を受けた子ども編集部のメンバーが取材をした。
――「こどものたたかい」シリーズをつくったきっかけを教えてください。
労働組合系の写真いり雑誌に、新曲を載せる連載企画をしていたら、次号のネタがなくなっちゃって(笑)。まだ批准前の子どもの権利条約を見つけて「ちょっとおもしろいなあ」と。それで書いたのが91年の「こどもとおとな」なんです。きっかけが、そんな感じだったんで、それっきりにしようと思ったんですが、いつのまにか続きを書くようになったんです。いまでも思い出しては書いてますよ。
子どもの権利条約って、言ってることそのものはいいけど、日本政府が訳した条文って、よくないでしょ。独自に訳す人もいるけど、僕がそれをやってもおもしろくない。かといって条文そのものに曲をつけるのもおもしろくないし、たんなるアジテーションにもしたくない。それで、ああいうかたちになったんです。
それと、これは、あとから思いついたことなんですが、「こどものたたかい」シリーズは、「子どもの権利条約の精神を自分でかみ砕いて歌にした」という単純なものじゃない気がするんです。僕自身の子ども時代、それから自分の娘との葛藤、そういうものが歌自体に流れこんでいるようにも思うんです。
もどかしく考える時間
――私は、親に進路を「早く決めなさい」と言われてるので「せかさないで」を聞いて感動しました。
子どもと大人の関係って、時代とともに変わりはするけど、まるっきり変わっていない問題もありますよね。
子どもは、「なぜ、こう思うのか」を説明したくても、うまく言い当てる言葉が見当たらない。かんたんに割り切れないことほど、いろんな言い方をしなければ、言い当てることができません。だから、子どもはいろんな言い方をしようと、もどかしいながらも、いっぱい考える。子どもにとって、それは大事な時間なんですが、大人にとっては、ただの「待ってる時間」です。「早く!」と言いたい気持ちはよくわかりますけどね。いつまで答えを待てばいいのかもわからないし(笑)。本当はその場でカタをつけるんじゃなくて、ひとまず答えを求めるのは止めておければいいんだけどね。
――親に「せかさないで」を歌ってあげたいです。
いいですね(笑)。大人には大人の都合も言い分もあるし、子どもに対してどうしていいのかわからない、という気持ちもあるんです。もちろん、それは子どもにもあるわけです。ただ、それを言葉にするとギスギスするばかりのときもある(笑)。
歌にすると、言葉で伝えるより、丸ごとポカッと投げるように伝えられる、相手も思わず受け取ってしまう、そういう力が歌にはあるような気がしますね。
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