不登校新聞

518号 2019/11/15

HSCの息子の反応、運動会の練習でつまづいた結果

2020年04月16日 13:26 by kito-shin
2020年04月16日 13:26 by kito-shin

連載「わが家が目指したのはHSCの安心基地」vol.9

 幼稚園での「ママ離れミッション」成功後、6月21日の運動会に向けての練習が始まりました。

 始めのころは、息子のたけるも楽しく取り組んでいましたが、本番に向けた本格的な練習にさしかかったころ、担任の先生から「小学校と合同での練習が始まったら、急なスケジュールの変動があるので、運動会まではまた園で待機してもらったほうがいいかもしれない」とお話があり、私は駐車場待機に戻ることになりました。

 本番までの2週間、毎日のように本格的な練習が行なわれます。5月のなごやかな空気は徐々に緊張と疲れの空気へと変わっていくようでした。

 全体練習では、たけるの要望でそばにつくことになりました。まわりからは過保護な親に見えるにちがいない。

 でも「どんなかたちでもいい、これを乗り越えることでひとまわり成長するかもしれないし、達成感も味わえて自信がつくかもしれない」。

 そう思うから、目立とうと、おかしかろうと、付き添おうと決めたのでした。




 練習は毎日あるので、お休みするとみんなに迷惑がかかってしまいます。ですから、この期間は何とか穴を空けないように、私もちょっと必死。先生方の指導にも熱が入ります。

 そういう大人の緊迫感を、たけるは敏感に察知します。家ではしだいに、元気がなくなり、口数が少なくなり、あるときはひどくイライラして不機嫌だったり、キレやすかったり、泣きやすかったり、そして……運動会の1週間ほど前に、熱を出しました。

 たけるの症状や変化を見ていた夫は「ストレス反応のようだね」と。それから、「家の中がこんなピリピリした感じになるのは悲しいね」「子どもから笑顔がなくなっていくのはつらいね」と会話しました。

 その後、布団のなかのたけるに、「たけるは運動会、出るのやめたい?」と聞きました。

 するとたけるは「え? いいの?」という答え。本人は運動会に出たくないどころか、本当に出なくていいと思っていることにとまどいを感じつつ会話を続けてみました。

「たける、練習はすごくがんばってるじゃない? やってみたら楽しかったって、いい思い出とか自信になるんじゃないかな」

「……」

「楽しみとか、がんばってみたいって気持ちは、ちょっとはあるのかな?」

「ちょっとはある……かも。わからない」

「反対に、がんばらなくても平気なのかな?」

「平気」

 たけるからは、親の私が安心するような答えは聞かれませんでした。

 それでも、その答えを聞いても、かんたんに『やめておこう』とは言えませんでした。練習もすごくがんばっていたし、やっぱり自信になるかもという期待が拭えなかったのです。(文・絵 斎藤暁子)

■著者略歴/(さいとう・あきこ)『HSC子育てラボ』代表。心理カウンセラー。息子たける(9歳)と精神科医の夫は、ともに敏感・繊細気質。著書に『HSCを守りたい』(風鳴舎)など。HSCとは/「Highly Sensitive Child」の頭文字を取った「HSC」は、心理学者エレイン・N・アーロン氏により提唱された概念。「ひといちばい敏感な子」などと訳されている。HSCは障害や病気の名前ではなく、生まれもっての気質。

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