連載「不登校50年証言プロジェクト」
斎藤環さんは、ひきこもりの専門家として知られているが、不登校の文脈においても、ぜひ、証言していただきたい方だった。斎藤さんは大学院時代、稲村博さん(精神科医)に師事していた。80年代半ば、稲村さんの不登校の入院治療のあり方は問題となり、その後、88年に朝日新聞の夕刊1面トップに「登校拒否は早期に治療しないと無気力症になって30代まで尾を引く」という稲村さんの見解が載ったことで、緊急抗議集会が開かれる、児童青年精神医学会で調査が行なわれるなど、大きな問題となった(本プロジェクト#19堂本暁子さん、#35高岡健さんなど参照)。
また、稲村さんの「遷延化」「無気力」といった捉え方は、斎藤さんも引き継がれており、デビュー作である『社会的ひきこもり―終わらない思春期』(PHP新書)では、ひきこもりは「専門家による治療なしでは立ち直ることができません」と言い切っていた。
そうした経緯もあり、本紙によく登場する高岡健さん(精神科医)や芹沢俊介さん(評論家)は、厳しく斎藤さんを批判されてきた。その歴史を知る方からすれば、不登校新聞社で斎藤環さんにインタビューすること自体に、驚かれる方もいるだろう。しかし、このプロジェクトは、ある一定の見解だけを載せるのではなく、さまざまな方に証言いただき、長期的かつ多角的な観点から不登校「問題」を問い直すことを目的としている。そういう意味では、斎藤さんへのインタビューは欠かせないものだったと思う。
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インタビューは、稲村博さんとの関係、ひきこもりへの介入のあり方、暴力について、オープンダイアローグ、発達障害、クラスジャパン問題、女性のひきこもり、ヤンキーとひきこもり、現在の社会における成熟の意味について、ホームレス化への懸念など、話題は多岐にわたった。また、斎藤さんはメディアによって言うことがちがっていて、一見、矛盾することを言っていることも多い。そのあたりについても、いくつか踏み込んでうかがっている。
親の会やフリースクールなどの側から不登校やひきこもりについて語られてきたことと、専門家として斎藤環さんが語ってきたことは、ときに対立し、ときに共振しながら、ここまで来ているように思う。斎藤さんにかぎらず、私は、長年すれちがってきた部分こそをていねいに拾って、議論できる素材にしてもらえればと思って、このプロジェクトにあたってきた。それがどこまでできているかは読者の判断にゆだねたいが、聞き手の実感としては、このインタビューでは、考えるべき材料がたくさん示されたのではないかと思っている。
一方では、斎藤さんも指摘されていたのだが、不登校やひきこもりは、対立的な議論も含めて、世間からは忘れられやすい問題だ。ややもすれば、すべて発達障害に還元してしまったり、薬で対処するだけの問題にされかねない。これまでの対立的だった議論も含めて、あらためて、きちんと考え直し、この先を考えていくことが必要だろう。ぜひインタビュー本編をお読みいただき、忌憚のない感想や意見を寄せていただきたい。(本プロジェクト統括・山下耕平)
不登校50年 #43 斎藤環さん
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