不登校新聞

521号 2020/1/1

登園をしぶる息子の「これから」が見えた2人だけの川遊び

2020年04月16日 13:31 by kito-shin
2020年04月16日 13:31 by kito-shin

連載「わが家が目指したのはHSCの安心基地」vol.12

 たけるは、以前には戻れないことが感じられるようになっていました。

 それでも、幼稚園での「川遊び」は楽しみにしていましたので、私は、先生と保護者で行なわれる、川の草刈りや掃除の作業に参加しました。

 川遊びまでの数日、たけるはもう幼稚園には行かなくなっていました。

 川遊び当日。

 「やっぱりどうしようかな……」、たけるは気持ちも身体も向かいません。

 楽しみだけど、全校生徒参加という大人数での行事なのがブレーキをかけるのでしょう。

もう疲れて心が折れそう

 じつは私も、もう疲れていて、どこかで何かがポキッと折れそう。ことあるごとに、ひとつひとつつまずく。サポートしてもダメなものはダメ。

 たけるの場合はわかりやすく体調に出るし、笑顔が消え失せている。突き放せば深刻なダメージを抱えたり、信頼関係に亀裂が生じてしまうかもしれない。

 あると思っていた道が今、見えなくなっている。たけると話してみました。

私「川遊びは無理に行かなくていいし、エビとか採りたいんだったら参加するし。ママは本当にどっちでもいいんだ」

子「エビ採りとかはしたいんだけど……、やめとこうかな」

私「そうだね」

 結局、川遊びもお休みしました。

 ただ、川遊びをしないまま時間がすぎることが、なんだか胸に引っかかり、たけるに提案してみました。

私「ねぇたける? お昼からママとふたりで川遊びに行こうか」

子「うん!」

 そうして午後、ふたりだけで川へ行きました。

子「わぁ、ほんとだ! 川がある」

私「じゃあ、川に入ろうか」

 浅い川です。川をさかのぼりながら、エビがいないか探します。

 青緑色の金属光沢が美しいリュウキュウハグロトンボを見つけて大興奮。

 エビもちゃんといました。

 念願のエビ採りは大成功! 捕まえたエビは、たけるの希望ですぐに逃がしました。

 誰もいない川で、ふたりだけの川遊び。午前中はここにたくさんの園児や児童、先生、保護者が……、そこにはまだその気配が残っているようでした。

 大勢でにぎやかな川遊びに対して、私たちは親子だけの静かな川遊び。どこか切ない気もするけれど、これがたけるの望む育ち方なのかもしれない……。

 行き先が見えなくなっていた道。

 「たけるが進むのはこの道ではないんだな……」

 この先に続きはないのだと、ふと感じました。ちょっと胸が詰まりそうで、あふれてきた涙を隠しました。

 もう、無理しなくていいね。

 私は、たけるが進むのはこの道ではないことにはっきりと気づくために、川へ来たのだと思いました。(文・絵 斎藤暁子)

■著者略歴/(さいとう・あきこ)『HSC子育てラボ』代表。心理カウンセラー。息子たける(9歳)と精神科医の夫は、ともに敏感・繊細気質。著書に『HSCを守りたい』(風鳴舎)など。HSCとは/「Highly Sensitive Child」の頭文字を取った「HSC」は、心理学者エレイン・N・アーロン氏により提唱された概念。「ひといちばい敏感な子」などと訳されている。HSCは障害や病気の名前ではなく、生まれもっての気質。

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