2016年9月、文科省は不登校の対応についての通知を出した(※最後尾参照)。文科省の不登校支援担当として通知の作成に携わってきた児童生徒課・高橋由紀課長補佐に、通知の趣旨や通知への反応についてお話をうかがった。
――2016年9月に出された通知は、どんな背景から出されたのでしょうか?
不登校に関する有識者会議の最終報告が7月に取りまとめられ、その提言をもとに通知を出しました。学校現場や教育委員会などで不登校への対応は続けられていますが、不登校の数は依然として高止まりしており、対応について見直すべき点があるのではないかという認識から有識者会議が立ち上げられたからです。
"本人に非がない"通知で明示
最終報告のなかで、不登校に対する認識の一つとして、不登校は多様な要因・背景による結果として不登校状態になっているのであり、その行為を「問題行動と判断してはならない」という提言をいただきました。つまり、問題行動にくくられる「校内暴力」や「いじめ」とは異なり、「子ども本人に非がない」ということを明示したところです。
文科省としては、関係者にこうした認識を持って対応にあたっていただきたいと考え、通知しました。
――1960年代以降、そもそも不登校を問題行動として扱ってきたのは文科省ではないのでしょうか。
2016年の通知を出すまで『不登校は問題行動だ』と文科省が認識してきたわけではありません。少なくとも10年以上前に出した2003年の通知でも、子どもの状況を把握して、どういう支援が必要なのかを見極めたうえで適切な「支援」を行なうことを求めています。この姿勢は、2016年の通知でもなんら変わりません。
――学校現場からは「これまでと180度、態度が変わるような通知で混乱している」という意見も聞かれますが。
学校現場で不登校を問題行動と認識して子どもと関わっているのであれば、通知を今一度確認いただき、「支援」に重点を置いていただければと思います。また2016年、不登校の子への適切な支援を行なわなければいけないという趣旨の法律も成立しましたので、その意味でもしっかりと対応をいただければと思います。
支援とは無理やり登校させることではない
――有識者会議の最終報告では「3日連続で休む場合などは校内で検討すべき」とあり、通知でも「早期支援の重要性」を訴えています。これまで、早期支援を名目とした無理な登校圧力などが問題になりましたが。
不登校の支援は、学校への登校だけが目標ではありません。最終的な目標は子どもの社会的自立です。「3日連続で休んだ場合は検討を」という提言は、なにも「3日休んだら、すぐに学校へ復帰させる」という意味ではありません。何らかの理由でつらい思いをしている状況があれば、その状況を学校も親御さんも理解し、その子にいま何が必要なのかを見極めたうえで、必要な支援をしましょう、という意味です。早期支援の重要性というのは「ムリやり学校へ引っ張ってきなさい」という意味ではありません。
――学校関係者からは「学校復帰以外の目標を学校は掲げられない」という意見も聞かれてますが。
くりかえしになりますが、不登校支援の目標は学校復帰のみではありません。お子さんの状況に応じて、どういった支援が必要なのかという視点を持って支援していくことが重要だと考えています。
――学校や教育委員会に対してはどのようなことを期待されているでしょうか。本紙取材では、2016年の通知を「見ていなかった」と言う校長先生もいました。
通知のなかでは、まさに学校や教育委員会での取り組みの充実を言及していますので、見たことがないという方には、まず確認していただき、文科省がなにを求めているのかをご理解いただいたうえで、学校や教育委員会として、通知の趣旨に基づき、支援充実に向けた取り組みを早急に考えていただければと思います。なお、2016年の通知は文部科学省HPにも掲載しています。
――ありがとうございました。(聞き手・石井志昂)
■文科通知の内容(一部抜粋)
不登校とは、多様な要因・背景により、結果として不登校状態になっているということであり、その行為を「問題行動」と判断してはならない。不登校児童生徒が悪いという根強い偏見を払拭し、学校・家庭・社会が不登校児童生徒に寄り添い共感的理解と受容の姿勢を持つことが、児童生徒の自己肯定感を高めるためにも重要であり、周囲の大人との信頼関係を構築していく過程が社会性や人間性の伸長につながり、結果として児童生徒の社会的自立につながることが期待される。
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