不登校新聞

197号(2006.7.1)

地上げ屋がタイで出家した理由

2018年11月22日 10:39 by shiko




 今回、取材したのは、上座部仏教の僧・藤川チンナワンソ清弘さん。ひたすらに「金」を追い求めてきた人生から一転、タイの僧侶になったという不思議な経緯などをうかがった。

 * * * 

――不動産屋時代のことを教えてください。

 当たり前の話やけど、始めてすぐには儲からんかったな。金もないし地盤もないから、仲介料や建て売りでボチボチ小銭を稼いでた。

 なかでも、建て売りの仕事はおもしろかったで。自分で住むならどんな家がいいのか、どんな土地がいいのか、そういうことを考える仕事やしな。

 そやけど、金が貯まりだしてからは、もうムチャクチャ。事業なんてもんやなかった。

 あるとき、まとまった土地を買って、マンションを建てようとしてたら、大手マンション会社から「その土地を買いたい」って声がかかってな。

 土地代から購入にかかった経費、予想してる利益、すべて併せた金額で買うと。それで、一気に億近い金が入ってきた。

 こんなボロい商売を知ったら、ほかの仕事なんか、できなくなってしまう。そこからは地上げ屋みたいなことをして、それが一番儲かってたな。

 あと、「圧縮」とかな。カラ領収書を書いて大手組織に売るだけで、領収書に書いた何千万円という額の1割ぐらいがもらえた。
 
 でも、こんなん事業でもなんでもないやろ? 誰でもアホらしくなってくるで。こんな商売やめて、言葉もわからず、知り合いもいない土地で事業を起こしたろと思ってな。タイに行ったんやわ。

――出家されたのはどうしてですか?

 タイでは習慣というか、短期間の出家する人が多くて、ほとんどの従業員が出家してた。

 で、なぜかオレには「社長のような、女と金で生きている人には絶対にムリ」と、みんなが言う。それで「アホか、やったるわ」とタンカ切ったのがきっかけ(笑)。

 最初はキツかったで。もともと宗教には興味ないし、言葉もわからんしな。せやけど2週間経ってから、巡礼でいろんなお寺をまわったのがよかった。

 なかでも、ある20代の若い僧に「オレは今年で51歳やけど、恥ずかしい話、毎晩、女がほしいと思ってる。若いのに辛抱するのはムリやろ?」と聞いたときにな。

 その若い僧は「私は自分の意志で出家しました。どうしてもムリなら僧を辞めます」とキッパリと答えてきた。その態度に、一本スジの通ったものを感じてな。

 仏教は葬式や法事のためだけにあるものとちがう。正しいか、まちがっているかは別として、どう生きていくかを実践的に教えてくれる。これはもう哲学。あの子らは、その道を信じて実践してる。そっから、この道にハマっていった。

 結局、約束だった3カ月間が過ぎても帰りたくない。せやから、一度シャバに戻って(笑)、財産を整理して出家した。もう、今年で14年目になる。

――出家して感じられたことは?

 金を握ろう、名誉をつかもうとしなければ、気持ちがええということ。楽やでぇ。

 お釈迦さんは「人は金の雨を降らしても満足しない」って言うたけど、ワシの経験から言うても、まったく、その通りやね。

 いまの日本も状況は同じ。いろいろと問題はあるけど、それは教育制度や法律を変えるぐらいでは、なんにも変わらんと思う。

 終戦後、オレらは金を必死になって追い求めてきた。映画を見てはアメリカにあこがれ、車も、マイホームも、全部ぜんぶほしがった。その結果、お金がまわってきたのは、まあ、ええとして、「心」や「精神」の成長がなかった。

 娘は「お父さんだけには、それ、言われたくない」って言うやろうけど(笑)。

 

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