入園式が始まった直後、息子のたけるがうしろをふり向きました。
ママと離れること、初めての場所、こと、人、注目されること、どれもたけるがとても苦手で苦痛なこと。ふりむいたその顔はもう、いっぱいいっぱいでした。
たけるは無我夢中でみんなに合わせて入場したけれど、本当はもう限界を超えている。このままだと泣き始める……。
次の瞬間、私はそっと席を立ち、たけるの後ろに移動して背中をさすり始めました。「絶対守る!」と言った前日の決意が、考えるよりも先に体を動かしたかのようでした。
入園式に親が子どもに寄り添い背中をさするなんてあり得ないよね。そう思う自分もいます。
ときどき、ふと気が緩むと、やっぱりまわりの目が気になり、「甘やかしてる」「過保護」「あ~、それじゃいつまでも自立できないはず」といった声が頭に浮かんできます。
その声は、きっと私に染みついた世間体からくるもの。でも頭のなかに浮かんできてしまった声との会話は続きます。
「なんでそんなこと気にするの!?」
「入園式で子どもの背中をさすって安心させるのはヘン?」
「いや、ヘンじゃない」「私は守るって決めた! 今のたけるにはこれが必要なの!」
「どう思われようと、たけるを感じてきた私にしかわからないんだから!!」。
式のあいだ、私は背中をさすり続けながら、頭に浮かんだ世間体をふり切って、心の軸をたけると自分に戻そうとしました。
式のあいだ、私はずっと、たけるの背中をさすり続けました。ただ、それでもたけるはつらそうに私を見ました。
入園式は何のためにあるのか? なぜ親から離れて集団生活に移行する時期が選べないのか? そう考えていると、「次はチューリップを歌います。園児のみなさんは立ってください」と声がしました。
練習したチューリップ、たけるは誰よりも大きな声で一生懸命歌います。
ここがたけるの不思議なところ。どうしてもダメなことや、苦手なことと、大丈夫なこと、自信を持ってやり遂げたいこと、それらがはっきりしていてわかりやすいのです。
入園式は無事、終わりました。
「ただいま!」。
たけるは、ぐったりするようすもなく元気です。
「私、ちゃんと守れたと思う」。そう報告すると、夫は、「たけるを見たらわかる。ありがとう」と言いました。
たけると、「子どものころのパパ」を守るという決意から一心に取った行動は、ある意味、人からどう思われるかという「恐怖の殻」を破る、自分のためのチャレンジでもあったのでした。(文・絵 斎藤暁子)
■著者略歴/(さいとう・あきこ)『HSC子育てラボ』代表。心理カウンセラー。息子たける(9歳)と精神科医の夫は、ともに敏感・繊細気質。
■HSCとは……「Highly Sensitive Child」の頭文字を取った「HSC」は、心理学者エレイン・N・アーロン氏により提唱された概念。「ひといちばい敏感な子」「とても敏感で繊細な子」などと訳されている。HSCは障害や病気の名前ではなく、生まれもっての気質。
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