今回お話をうかがったのは、ラッパー・R-指定さん。リズムに合わせて二人のラッパーが交互に即興でラップをしあい、相手を言い負かせたかどうかを競う「MCバトル」の世界で有名なラッパーだ。取材企画者は不登校経験者・山本龍仁郎さん(今号記事参照)。山本さんは、ラップを趣味にしながらも、自分に自信を持てないことから、「MCバトル」のステージにはまだ立てていない。今回、心からあこがれる人、R-指定さんに、10代のころ考えていたことや、ステージに上がる恐怖などについてうかがった。

――どんな子ども時代を送ってきましたか?
 
 一言で言えば「イケてない子ども」でした(笑)。ラップをしている人は「不良っぽい」と思われるかもしれませんが、俺はまったく不良ではなかったです。とはいえ優等生だったわけでもない。勉強はできないし、運動神経も悪いし、コミュニケーション能力も低くて、学校という世界のなかではかなり下のほうの人間でした。みんなが当たり前のようにできていることが自分にはできなかった。そのことに無力感を感じて「自分にはなんもないな」と思っていました。
 
 そんなときにふとラップを聞いたんです。それまでは俺自身も「ラップなんて自分とは無縁の世界や」と思っていたんです。ところがよく聞いてみると「この曲のメッセージって、不良だけに向けたものじゃないな」とわかってきたんです。俺にも「お前、そのままでいいぞ」と言ってくれているように感じました。だから、「不良じゃない俺でも、もしかしたらラップはできるかも」と思ったんです。
 
 でも学校ではラップの話はできませんでした。なにしろ俺が中学生だった2005年ごろって、売れているラップといえば恋愛ソングとか「親に感謝」みたいな歌ばかりで(笑)。かっこいいと思うラップは売上チャート上にはほとんどないような状況でした。こんななかで「俺ラップ好きやねん」と言っても、鼻で笑われるなと思って。だから家でひっそり歌詞を書いたり、1~2人のごく少数の友だちのなかだけで共有しあっていました。
 

"外”の世界の人との出会いが

 
 転機になったのは高校2年のときに大阪・梅田のサイファー(路上でラッパーが集まりセッションをする集会)に行ったことです。そこで感じたのが、「いろんな人がいるんだな」ということ。俺はそれまでは、頭のいいやつは大学に行く、ヤンチャなやつは高校を卒業して働く、そんな典型的な2つの道しか頭になかったんです。でも梅田のサイファーには中卒の人や、ひきこもりだった人や、バリバリのエリートコースを歩いているような人もいました。まったくちがう生き方をしてきた人たちが、ひとつの場所でラップをしていることに驚いたんです。
 
 それまでは学校のなかが自分の世界のすべてで、学校のなかで「イケてる」「イケてない」という格差があることにずっとイラついていたんですが、外の世界の人たちと出会って、「俺はすごく狭い世界にいたんやな」と思いました。
 それからは、見た目とか、まわりの人と同じことができない、ということをいっさい気にしなくなりました。「俺にはラップがあるし、それを共有できる仲間がいる。それが一番楽しくて大事なことやから、別に学校ではどうでもええな」と、ある意味、開き直れたんですね。


取材のようす
 

コンプレックスをさらけ出した

 
 俺は梅田のサイファーで「学校でイケてない自分」をネタにしてラップをしました。「俺は学校ではぜんぜんイケてない。学校で騒いでるやつらを陰で見ながら、あいつらぜんぜんおもしろくないやんと思ってる」と言ったら、みんな楽しんでくれて場が盛り上がったんです。こんなこと、学校のなかでは絶対に言えない。


この記事は登録読者だけが閲覧可能な内容を含みます。続きを読むにはPublishers IDによる読者登録が必要です。