不登校新聞

342号(2012.7.15)

【公開】当事者講演録「不登校・ひきこもりのプロセス」

2014年06月23日 13:23 by kito-shin
2014年06月23日 13:23 by kito-shin
 不登校・ひきこもり経験から、相談機関を開設した丸山康彦さんの講演抄録を掲載します。



絶望の末の底つき体験

 本日は「不登校・ひきこもりのプロセス~点ではなく線で見る~」というテーマでお話させていただきます。まず始めに、自己紹介をかんたんにさせていただきます。
 
 私は高校1年生のときに不登校をし、7年かけて高校を卒業しました。
 
 私自身のエリート意識から「いずれは東大に」と考えていたのですが、大学受験がだんだん近づくにつれ、現実とのズレに行き詰まってしまいました。4回目の留年が決まったとき、私は絶望のどん底に落ちました。完全な"底つき体験”でした。
 
 しかし、それがきっかけとなって、バッとエネルギーが出始めたんです。身の丈に合った自分を認識したことで、生まれ変わったような感覚でした。

大学卒業後、ひきこもりに

 教師になりたいという夢をかなえるため、大学に進学しました。卒業後は高校の非常勤講師を1年務めたのですが、あることがきっかけでひきこもりました。期間は28歳から34歳まで、足かけ7年ほどです。
 
 第1期(28~29歳)はほとんど自宅ですごしていました。外出するのは月に1回程度で、ひきこもりのきっかけにもなった親との確執でぶつかり続けた毎日でした。第2期(30~31歳)は、当事者不在の教育の現状に疑問を感じ、教育や支援について考えていました。第3期(32~34歳)では、児童福祉施設やサポート校など、家庭や学校からはじき出された子どもに関われる仕事はないかと、ひたすら就活に励みました。
 
 傍から見れば、いわゆる"社会復帰”に近づいているように見えるかもしれませんが、じつはこの時期が一番苦しかったんです。
 
 というのも、就活となると社会を直視しなければいけなくなります。同世代の友だちはとっくに就職し、結婚し、一人前の社会人になっている。「それに引き替え、自分は……」という負い目や喪失感に苛まれることになるわけです。
 
 30歳をすぎての就活がうまくいくはずもなく、ふたたび絶望のどん底に落ちました。いま思えば、死というものがあれほど近くに感じられた時期はほかになかっただろうと思います。
 
 それと同時に、自分を否定し続けるなか、「ダメな自分を受けいれて、野生動物のように自然に生きていこう」と、考え方が変わっていきました。これまで考えてきたことを活かせる道はないかと模索し、2001年に相談機関「ヒューマン・スタジオ」を開設し、不登校・ひきこもりで悩む親子の相談事業にあたっています。

当事者の心理状態は

 相談事業をするなかで、不登校やひきこもりには2つのプロセスがあるということが見えてきました。
 
 図を見てください。これは、不登校・ひきこもりをしている子どもたちの心の状況を曲線で示したものです。私は太線で示したものを「ソフトランディング」、細線で示したものを「ハードランディング」と呼んでいます。
 
 (1)の状況は、親はなんとか学校・社会に復帰・行かせようとするし、本人もも復帰しなければと無理に無理を重ねている時期です。
 
 (2)の時期をすぎると、本人にも徐々に元気が出てきて、「なにかやってみようかな」と「やっぱりできない」というくりかえしを経て、少しずつ調子が上向いていくことになります。
 
 一方、細線で示したのは、私のように大きな挫折に直面した結果、"底つき体験”をしている状況です。
 
 どういう場合にこのプロセスをたどるかというと、2つのケースが考えられます。
 
 1つは当事者が支援を拒み続けている場合で、私はこのケースに該当します。もう1つが支援を受けたり学校や社会に復帰しようとしてみたものの状況が改善されない場合で、明日登場するひきこもり名人の勝山実さんはこのケースではないかと思います。
 
 どちらにしても、最終的に独自の価値観や生き方を見つけるしかなくなります。私の場合ならば「野生動物のように生きる」、勝山さんであれば「半人前でいい」という、苦しみぬいた末に独自の生き方を見つけるとというものです。
 
 では、プロセスに沿った支援とは何か。具体的に2つの方法があるのではないかと思います。
 
 一つは当事者が目標に向かって一目散に走り続けられるよう支援する方法、もう一つは当事者が自分のペースで歩き続けられるよう支援する方法です。
 
 前者については、無理を重ねる場合も多く、あまりオススメできません。
 
 「ヒューマン・スタジオ」の相談業務で私が実践しているのは、後者の支援です。まず、気持ちの浮き沈みの波が少なく、疲労感がありません。もちろん少しずつよくなるので動き出すまでに時間はかかります。
 
 ですが、ダイエットにたとえるとわかりやすいかと思います。急なダイエットで1カ月に10キロ痩せたとしても、反動でリバウンドする危険性があります。
 
 しかし、1カ月に1キロずつ痩せるようにすれば、10キロ痩せるのに10カ月かかりますが確実に痩せられます。
 
 この際に大切なことは、「当事者が自分の足で歩いている実感を得られるかどうか」だと思います。

すべての物事はつながっている

 本人の状態がよくなってくると親は「このまま行けるんじゃないか」と期待します。逆の場合は、これまでの努力が水泡に帰したと落胆します。
 
 日々、相談を受けるなかでも、こうしたお話をよく聞きますが、私が思うのは「すべての物事はつながっている」ということ。
 
 その時々の状態のよし悪しに一喜一憂する(点で捉える)のではなく、過去から未来へ向かう流れのなかの一場面として冷静に受けとめる(線で捉える)ことが、当事者にとっても親にとっても重要だと思います。
 
 そうでないと、一時点だけを抽出して比較をくり返すばかりで、あまり意味がありません。重要なことは、本人はいま、プロセスのどの段階にいるのかを把握することではないでしょうか。
 
 では、当事者に必要な支援とはなにか。現在行なわれている支援は大まかに2つあると思います。1つは、長期化を防ぐために、歩き方を変えようとするものです。たとえるなら、トンネルの途中に穴をあけて引っ張り出そうというもので、えてして「本人が支援を拒み続けている場合」に、こうした介入を検討するかと思います。しかしこの発想は一歩まちがえれば、戸塚ヨットスクール、長田塾、アイメンタルスクールなどの"引き出し屋”に行きついてしまいます。
 
 他方、「極端に落ち込まないよう引き留める」という支援もあります。私が言うところの、「ハードランディングをしないように本人を支える」ということです。
 
 もちろん、みながみな、とことんまで落ち込めばいいということではありません。ただ、私にしても勝山さんにしても、"底つき体験”により、独自の生き方を見つけ、現在にいたっていることは事実なのです。「引き出し」や「未然防止」の観点に立った支援のみで、はたしていいのか。不登校・ひきこもりの経験者として問い返したいことの一つです。
 
 不登校でも、ひきこもりでも、当事者はつねに自分を否定し、葛藤しています。絶望に向かっている道程は非常に苦しいものですが、だからといって作為的に引っ張り出そうとしたり、極端に落ち込ませないようにする支援は、当事者のなかには、そちらのほうがかえって拒否感を抱く場合もあるわけです。
 
 当事者の心はそれほどまでにさまざまな矛盾を抱えていて、複雑で奥深いものだと思います。
 
 私はそれを推し量りながら、そして「人生に深い納得と肯定感が得られる」ことを支援目標に、今後も相談事業にあたっていきたいと考えています。(ヒューマン・スタジオ・丸山康彦)


【プロフィール】
丸山康彦(まるやま・やすひこ)
不登校のため、7年かけて高校を卒業。大学卒業後、高校教師を務めた。その後、7年間ひきこもりを経て、個人事務所を開設。自身の経験を活かし、不登校・ひきこもりの青少年および家族への援助実践を重ねている。


■相談機関「ヒューマン・スタジオ」

主な相談内容 
①不登校
②ひきこもり
③家族間暴力
④相談機関の選び方
⑤相談の仕方など

連絡先 (TEL)0466-50-2345
     (FAX)0466-54-7608

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