不登校新聞

540号 2020/10/15

「あなたは不登校を克服しましたか」不登校経験者36名の回答

2020年10月13日 14:02 by koguma

「克服したと感じたか?」不登校経験者36名の回答(※1)

 不登校経験者のインタビューを読んでいると「私は不登校を乗り越えた・克服した」という切り口で「不登校その後」が語られていることがあります。そう感じている人もいると思いますが、「不登校を乗り越えたか否かというあいだには、じつは不登校経験者のさまざまな思いがあるのではないか」と思い、今回は子ども若者編集部を対象にアンケートを実施。率直な本音を聞きました。

* * *

 9月18日から25日にかけて、本紙「子ども若者編集部」にアンケートを実施しました。10代から40代にかけて、計36名から回答をいただきました。

 まず始めに、自身の不登校を乗り越えた・克服したと感じているか否かについてたずねました。

 「とても感じている」「やや感じている」と答えたのは8名(22・2%)、「どちらとも言えない」と答えたのは10名(27・8%)、「あまり感じていない」「まったく感じていない」と答えたのは18名(50・0%)と、不登校を乗り越えた・克服したと「感じていない」という人が半数という結果でした。続いて、その理由を聞きました。

「克服したと感じる」進学などで

 不登校を乗り越えた・克服したと「感じている」人は、いつどんな場面でそう実感したのか。

 「定期テストをすべて受けられたとき」「23歳で高校を卒業したとき」「遠方の高校に進学したとき」「同級生と何かいっしょに行事をしたとき」「海外の高校に転学したとき」などの理由が挙がりました。

 8名の回答者全員が現役高校生もしくは高校を卒業していることから、進学や学校行事などへの参加が「私は不登校を乗り越えた・克服した」と感じるきっかけのひとつになっていることがうかがえます。

 一方、「不登校になった真の理由に気づけたときに自分自身の過去と向き合うことができた」「自分自身のありのままを受けいれられたとき」という声もありました。

 自問自答のすえに出した気づきが、そうした実感を得るきっかけになっていることがうかがえます。

「どちらとも」就活中に質問も

 「どちらとも言えない」と回答した10名のうち、現役高校生および高校卒業者は7名でしたが、先ほどとは少し異なる意見が集まりました。

 「精神的にも年齢的にも成長して余裕ができたと思うが克服とはちがうと思う」「不登校でうつ病になり、今もまだ症状が完全には治まってない」「大学にも進学したが学生生活が思うように楽しめず、人付き合いも苦手だった」などの声を見ると、進学や学校復帰によって、誰もが「不登校を乗り越えた」と実感するわけではないということが言えます。

 また、大学4年生のAさんは「乗り越える」という言葉自体が自分の感覚に合わないと言います。今年、就職活動を経験したAさんは面接中に「不登校をどう乗り越えましたか」と質問されました。

 「会社は『挫折から立ち直るサクセス・ストーリー』を望んでいると感じたそうです。そのときのことについてAさんは「話していくうちに乗り越えるって何だろうと思うようになりました。乗り越えたかどうかわからない、という正直な気持ちを言うのも手段のひとつとして持っておくべきだったのでは」と、振り返ってくれました。

「感じていない」言葉に違和感

 今回のアンケートでもっとも多かった、不登校を乗り越えた・克服したと「感じていない」と回答したのは18名。

 「不登校になったからこんな人生なんだと思うような出来事が3日に1回は起こる」「今でも不登校やいじめ自殺のニュースなどを見ると激しい怒りが湧き上がる」「普通の(不登校にならず学校へ行った)人とのギャップを感じることが多く、いつまで経っても自分は不登校経験者なんだと思ってしまう」「心の中にそのときの感情がまだ残っている」といった率直な本音が寄せられました。

 また先ほどのAさんと同様、不登校を乗り越える・克服するという表現自体に違和感を覚えるという声も多く聞かれました。

 「学校へ行くことが重要ではないため、不登校を克服する対象とは考えていない」「自分の不登校は克服したというより『経験した』というほうがしっくりきます」「中3からほぼ流れのまま通信制高校に通って、大学生になってしまったのでどこで不登校が終わったか自分でもわかっていない」といった声がありました。

 この点についてBさんは「乗り越えたという表現は病気などと同じ表現。そのようなものでなく、そのように表現されるべきものでもない。がん患者が『がんを生きる』というように、『不登校を生きる』ほかないのではないか」と指摘します。

 ここでも先ほどと同様、現役高校生や高校卒業者からもさまざまな意見が出ました。不登校が十人十色であるように、「不登校を乗り越えたか否か」という捉え方ひとつとっても、不登校経験者の思いはじつにさまざまであることがうかがえます。

周囲からの重圧について不登校経験者36名の回答(※2)

 アンケートでは、親や先生などから「不登校を乗り越えてほしい・克服してほしいと言われた経験やそうしたプレッシャーを感じたことがあるか否かも、たずねました。

 36名中29名(80・6%)が「ある」と答えました。そのときの気持ちについては「私はがんばってないのかと思って苦しかった」「社会の正解が一つだけのように思えてつらかった」といった声が集まりました。

 なかでも私がとくに注目したのは、周囲と自分との狭間で戦っている不登校経験者の気持ちです。

 「親が望むようなふつうの子でありたいという思いもあるのにできなくてつらかった」「気持ちはわかるし自分もそう思うが胸が痛かった」「期待に応えたいという気持ちもあって努力もしたが、それがしんどい場面もあった」と。

 不登校を乗り越えてほしい・克服してほしいという周囲の思いに不登校経験者自身も「乗り越えなきゃ・克服しなきゃ」という思いを持ちながら葛藤していることがうかがえます。

* * *

 今回はアンケートとは別に、不登校経験者で漫画家の棚園正一さんにもお話をうかがいました。

乗り越えようとするとかえって苦しくなる


棚園正一さん

 「どうやって不登校を乗り越えたんですか?」とよく聞かれるんですか、僕の場合は「乗り越えた」というよりも「すぎていった」という感覚です。

 今の自分があるのはいろいろな人との出会いや価値観にふれたからです。不登校を特別視したり、乗り越えるべきものと考えると、かえって苦しくなる人もいるように感じます。

 乗り越えたかどうかの捉え方は人それぞれです。良いも悪いもありません。大事なことはいろいろな考え方にふれることだと思っています。(漫画家・棚園正一さん(不登校経験者))

* * *

 世間一般では「進学や学校復帰をすれば不登校はおしまい、乗り越えたね」と思われがちですが、けっしてそんな単純な話ではないということを私は改めて感じました。

 そのうえで私はこう思います。はたして、不登校は乗り越えるべき・克服すべきものなのか、と。

 棚園正一さんがおっしゃるように、そう捉えることで、子どもだけでなく、じつは親自身もつらくなってはいないでしょうか。

 もちろん、今回ご紹介した声が、不登校経験者を代表した意見だということではありませんが、これを機に、「不登校その後」の語りについて、さまざまな声を聞きながら考えていきたいと思います。(企画・小熊広宣)

◎「不登校を克服したと感じるか?」に対する回答

【とても感じている】
〇毎日が幸せな時です。(10代/高校生)

【やや感じている】
〇大学受験で努力した際に感じた。(30代/当事者団体代表)

【どちらとも言えない】
〇「克服」の意味を知らない。(40代/無職)
〇心身症の症状が現在もあるから。(10代/高校生)
〇休みが多いながらも登校を続けたので。(20代/非正規)

【あまり感じていない】
〇不登校になって学校復帰できないと、一生不登校がこびりついて離れない気がする。(30代/主婦)
〇不登校を克服しようと大学受験をがんばって大学に入ったものの、当時の学校に感じた違和感が消えることがない。積み重ねがいまの自分の一部をつくっているわけだから、僕は不登校という経験をなかったことにはできない(30代/正規職員) 

【まったく感じていない】
〇不登校したことで、困難な場面に遭遇すると逃げる癖がついてしまったように感じます。(20代/短大・大学生)
〇わかりやすい成果というか、何かを成し遂げた実感もなく生きてきているので。(10代/高校生)
〇落ちぶれた身内と言われるほど、不登校になったことに対してずっと罪悪感を引きずらざるを得ないような出来事があった。進学した今も葛藤がある。(20代/短大・大学生)

 

■「克服したと感じたか?」不登校経験者36名の回答(※1)/「感じる」は、「とても感じている」「やや感じている」と答えた8名(22%)の合算値。「感じていない」は、「あまり感じていない」「まったく感じていない」と答えた18名(50・0%)の合算値。なお、質問の原文は「あなたは現在、不登校を乗り越えた・克服したと感じていますか?」。

■周囲からの重圧について不登校経験者36名の回答(※2)/質問の原文は「親や学校の先生など周囲の大人から「不登校を乗り越えてほしい」「克服してほしい」ということを言われた経験はありますか? また、そうしたプレッシャーを感じたことはありますか?」

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