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9月1日、僕は不登校になった 不登校経験者に聞く

2017年08月25日 12:47 by kito-shin
2017年08月25日 12:47 by kito-shin

11年前、小学5年生の9月1日から学校に行かなくなった不登校経験者の話を掲載する。「理由のない不登校だった」と自身の不登校をふり返るなかで、当時の思いなどをうかがった。

***

――不登校したのは?

 小学5年生の夏休み明けからです。宿題が終わらなくて、9月1日と2日の2日間、学校をずる休みしました。その間に終わらせてしまえば大丈夫だろうって思って。

 それで、いざ学校に行ってみたんですが、2日休んだだけなのに、まわりの動きに乗り遅れてしまった感じがしたんです。「学校に行きたくないな~」って考えているうちに、お腹も痛くなってきちゃって。

 「学校に行きたくない」なんて思ったのは、たぶん初めてだったと思います。中学受験のために塾通いしていたので、勉強もそこそこできるほうだったから。

始業式の日を毎日数えながら

――2学期が始まる直前の気持ちって覚えていますか?

 よく覚えています。始業式までの日にちをカウントダウンしていたこととか。あのときは「行きたくない、行きたくない」っていう考えしか、頭に浮かびませんでした。でも、8月29日、30日、31日と時間はどんどんすぎていくし、母親には「だから言ったじゃない!」って怒られるし。読書感想文なんて泣きながら書いていました(苦笑)。

 じつは去年、そのときの夏休みの宿題を引っ張り出して見直してみたんです。誤字脱字だらけで、よくこんな状況で提出できたなって思うけど、あのときは「とにかく終わらせなきゃ」っていう思いで必死だったんだと思います。

――その後は?

 2学期は学芸会があって、僕はわりと重要な役を任されていたんです。母にも「一度引き受けたからにはきちんとやりなさい」と言われました。

 学芸会が終わるまでにもいろいろあったんです。友だちから役名で呼ばれてからかわれたり、先生とのちょっとしたトラブルもありました。しかも、本番直前に風邪をひいてしまって。それでも何とか無事に終えられたんですが、自分としてはやり切ったというか、燃え尽きたというか、学芸会が終わってからパタッと行かなくなりました。

不登校の理由がわからなくて…

 ただ、担任の先生が「学校に来てほしい」と言うので保健室登校をしていました。そのことは友だちも知っています。だから、休み時間になるたび「教室に来いよ」と迎えに来るんですが、「いや、行かない」「なんで?」「なんとなくだ」というぐあいに、いつも断っていました。6年生に進級してからは、いっさい教室に入ってないですね。

 教室に戻るのがなんでそんなにイヤだったのか、何度か考えてみたんですけど、じつは今でもよくわからないんです。

 夏休みの宿題が終わらなかったことも、学芸会のプレッシャーが大きかったことも、じつは中学受験したくなかったことも、理由としてはどれも「それっぽい」んだけど、じゃあ直接の原因かと聞かれたらそうでもなくて。誰から見ても一目瞭然でわかる「不登校の理由」が僕にはないんです。

――理由をうまく説明できないと、まわりも納得しなかったのでは?

 そうですね、学校に行かない理由をいろいろ聞かれたときは「○○くんにいじめられていた」とか、その場その場で適当に答えていました。自己防衛のためのウソだったけど、そうするしかないからいつも悶々としていました。「これが原因だ」と言えることがあれば、もしかしたら解決できるかもしれないし、そうでなくても何かしらの対応策が見つかるかもしれない。でも、原因がわからないから対処のしようもなくて。しだいに、「とくに理由もないのに学校に行けなくなった僕はダメな人間なんだろうな」って思うようになりました。

――中学校はどうされたんですか?

 進学と同時に父方の祖父母と同居することになったので、引っ越しをしました。新しい学区だから知り合いもいない中学校だったけど、行ったのは入学式だけでした。

 入学式が終わって、ひさしぶりに教室に入ったんですけど、あの独特な雰囲気にどうしてもなじめなくて。5年生の秋ごろから1年半くらい学校から離れていたし、塾も辞めていたので勉強の遅れも気になってしまって。

 環境が変わって心機一転という思いのほかに、「迷惑かけている」という親への罪悪感もあったので「中学校はがんばって行こう」と決めていたんですが、無理でした。

両親からともに責められてたら

――ご両親の対応はどうだったんですか?

 どちらかと言えば、母は「学校に行ってほしい」という思いをストレートにぶつけてくることが多かったです。怒鳴られたことは1度もないけど、「どうして学校に行かないの?」って悲しそうに聞いてくることもあって。

 結局、中学受験はしなかったんだけど、その後も学校見学に連れて行かれたこともありました。「やっぱり学校に行ってほしいんだな」っていうのは言葉にしなくても伝わりました。

 ただ、父はいっさい何も言ってきませんでした。仕事が忙しかったからかもしれないけど、そのおかげでだいぶ助かったなって思います。夕食時とか親子3人で居るときは学校の話もほとんど出ませんでしたから。もし、両親から同時にプレッシャーを受けていたら精神的にだいぶ追い詰められていただろうなって思います。

 「不登校の理由」は結局見つからなかったんだけど、そのモヤモヤは中学卒業と同時にふっ切れたんです。もちろん、いろんなことが積み重なってのことだと思うけど、学校に籍を置かなくてよくなったとき、心の底から「不登校が終わったな」って思いました。

 高校進学については母とも話しましたが、「この子は学校に行かないかもしれないけど、元気にすごしていればいいかな」って母も思ってくれていたみたいで。「学校だって合う合わないがあるから」とも言われたし、「高校に行かないぶん大変かもしれないからがんばりなさい」とも言われました。

――その一言で焦ったりしませんでしたか?

 とくになかったです。母に言われたことは覚悟できていたというか、大丈夫だって思えていたから。今は「高認」(高等学校卒業程度認定試験)という制度もあるし、今すぐ必要でないならば、急いで取ることもないかなって思ったんです。それよりもやりたいことがあるなら、そっちを優先したほうがいいなって。
 ただ最近になって、「高認」を取ろうかなと思い始めていて、少しずつ勉強を始めているんです。

とりあえず今は「高認」の取得を

――それはどんな心境の変化から?

 祖父母から金銭的な援助があったことが理由の一つなんだけど、僕のなかで大きかったのは勉強に対する考え方が変わってきたことが大きいように思います。

 学校に行かなくなってからは、勉強に対してずっと拒否感を持っていました。いま、20歳なんですけど、英語とか数学とか、あらためて勉強してみるとおもしろいなって思うこともあって。祖母が英語の教師だったので、今日も帰ってから、いっしょに勉強する予定なんです。ただ、中学校に通ってないので、試験勉強自体が初めての経験です。少し緊張もしているけど、「高認」は何回も受けられる試験なので、とくに気負う必要もないかなって思うようにしています。

 昔からアニメやマンガの編集に関わる仕事に就きたいと思っていましたが、現時点でとくに行きたい大学とか専門学校とかあるわけじゃありません。それに、最近では英語をきちんと勉強してみたいという気持ちもあります。だからとりあえず今は、「高認」取得を目標にがんばってみようかなって思っています。

――ありがとうございました。(聞き手・小熊広宣)

【メモ】「高等学校卒業程度認定試験」(高認)
 「高認」とは、「高等学校卒業程度認定試験」のこと。
 高校を卒業していない者が、高校卒業者と同等の学力があるかどうかを認定する試験。試験に合格すれば、大学や専門学校の受験資格が得られるほか、就職や資格試験にも活用できる。ただし、試験に合格しただけでは、高等学校卒業とはならない。
 試験は毎年2回(8月と11月)に実施され、全部で10科目。受験資格は、当該年度に満16歳以上になり、大学入学資格を持っていない者。全日制高校休学中でも受験でき、在籍校で取得していない単位については、学校長が認めた場合に限り、「高認」の合格をあてることができる。合格科目は再度受験する必要がないため、2年、3年に渡って取得することも可。

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