9月1日に子どもの自殺が突出するという内閣府の発表を受け、8月18日、NPO法人全国不登校新聞社が文科省内にて記者会見を開いた。会見冒頭、同法人の石井志昂編集長(33)が「明日、学校に行きたくないあなたへ」と題した緊急メッセージを読み上げ訴えたほか、会見と併せて発行したWEB版『不登校新聞』の緊急号外について説明した。いじめや不登校などを経験した子ども若者の手記、チャイルドラインをはじめとした相談先など「子どもが今すぐ使える情報」も載っている。そのほか、脳科学者・茂木健一郎さんをはじめ、各界の著名人からのメッセージも紹介されている。WEB版『不登校新聞』の緊急号外は子ども自身がパソコンやスマホで読めるよう、全記事無料で公開中。記事は随時アップされる。
いじめ・不登校経験者が語る
"9月1日の意味”
20歳が来る前に死のうと思っていた――。記者会見に登壇した恩田夏絵さん(28)は語る。小学2年生で不登校した後にひきこもりも経験。義務教育は半分も受けていないという。19歳のとき、人生最期の旅のつもりで「国際交流NGOピースボート」が主催する地球一周の船旅に参加。さまざま人との出会いを通じ、生きることへの多様さを実感したという。その後、自殺を思いとどまるだけでなく、同NGOに就職。現在は自身の経験を活かし、海の上のフリースクール「ピースボート・グローバルスクール」のコーディネーターを務める。「9月1日」を控えた今、つらい気持ちを抱えた子どもたちに対し恩田さんは「今、あなたが居る場所でうまくいかなくても、あなたの居場所は他にもある。あなたが共に生きていたいと思える人たちにも出会えるはず、あきらめないでほしい」と訴えた。
NPO法人「ストップいじめ!ナビ」の事務局長を務める須永祐慈さん(36)も、引っ越しを機にいじめを受けるようになり、不登校になった。「最初はいじり、からかいから始まり、徐々にいじめに発展していった。子どもたちは急に自殺しようと思うわけじゃない。そこに至るまでに、少しずつストレスを溜めている。自殺はその一つの結果である」と、自身の経験を交え、内閣府の調査結果および9月1日を控えた今の子どもたちの気持ちを分析。「必ず良い方向に向かう道はある。誰かに相談できない時はメモや日記をつけるだけでも自分の気持ちを整理することにつながる。そして、親戚、近所、塾、ネットの友だちなど、親や先生以外にも少しでも伝えられる人がいることを考えてほしい」としたうえで、「とにかく体とこころを休ませる・場所を確保して」と、「休むこと」の重要性を訴えた。
現在、都内の大学に通う本田真陸さん(20)が不登校したのは中学1年生の10月、2学期明けだった。きっかけは、いじめと部活内での体罰だが、ハーフである本田さんへのからかいは、幼稚園時代からずっとあった。「新学期が来るというのは、とにかく嫌でした。クラス替えなどもあり、仲のいい友だちと離れてしまうことで、またいじめが始まるかもしれないと思い、夏休みが終わりに近づくにつれ、行きたくないという気持ちが強くなっていったことは、今も鮮明に覚えています」と語る。
新学期に子どもの自殺が集中していることについて本田さんは「学校に行かなくなった当初は、親ともいろいろあったし、僕自身、学校には行くべきだと思いこんでました。でも、フリースクールという学校外の居場所に出会い、学校に行く以外の道があると知れたから死なずに済んだのかもしれない。そう考えると僕はラッキーでした」と不登校当時を振り返る。
本田さんは今「不登校の子どもの権利宣言を広めるネットワーク」という活動に関わっている。「学校に行かなくても大人になれるし、不登校の子どもには権利があることを知ってほしい」との思いから、同じく不登校をした経験者同士で集い、「不登校の子どもの権利宣言」を作成するほか、動画を配信している。8月19日には最新の動画をYoutubeに投稿する予定。今、苦しい子どもたちに対し、本田さんは「学校は命を懸けてまで行くところではない、そのことを社会が広く子どもたちに伝えてほしい」と訴えた。
"子どもの自殺”
9月1日に集中する理由
専門家として登壇したのは、児童精神科医の高岡健さん。9月1日の子どもの自殺が突出する背景について、「集団を優位に置く学校のあり方に起因している。この場合、集団になじめない子どもたちは悩みを抱えた状態が長く続くことになる」と分析。夏休みなどの長期休み期間中の子どもの心理ついて、高岡さんは「周りにいる大人が自分のつらさに気づいてくれるかもしれないという淡い期待を持っているかもしれない。しかし、学校という、また危険な場所に行く日が近づくにつれ、まわりが気づいてくれなったということに子どもが気づく。これにより、子どもが命を落とす確率が高くなることになる」と語る。
では、子どもの自殺にサインはあるのか。高岡さんは「夏休みであれば宿題が終わってない、体の具合が悪いという訴えは注視すべき。一見、小さいサインだが、それにより身近にいる大人に気づいてほしいという子どもからのSOSでもある。これを小さいと片づけてしまっては、取り返しのつかないことになる」と言う。
さらに、周囲が取るべき対応について、「まずは自殺の予兆があろうがなかろうが『学校は命をかけてまで通うところではない』ということを、大人が子どもに伝えるべき。まずはこれが予防です。予兆が見えたら『死なないでくれ』とズバリ頼む。『死んではダメだ』と説教してはいけません」と語るとともに、安心してすごせる家庭の重要性を訴えた。
子どもが学び、育つ場
学校だけじゃない
記者会見の最後に登壇したのは、全国不登校新聞社の代表理事・奥地圭子さん。「フリースクールや親の会などの現場では、9月1日付近の子どもの自殺が多いことはずいぶんと以前から肌で感じていた。今回の内閣府の発表により、それを数字としてあらわしてくれた意義は大きい」と、現場での実感を伝えた。
9月1日の自殺がなぜ減らないのか。奥地さんは「学校には行かねばならない」という社会通念を原因に挙げる。「生き物の本能として、危険な場所に行かないのは当然のこと。学校に行けばいじめられるとわかっているのに、そこに行かざるを得ないというのは、子どもにとって"生き地獄”になってしまう」と警鐘を鳴らすともに、「学校のみじゃない、育ち方はいろいろある」という仕組みを作っていくことが肝要であると語る。
全国不登校新聞社では今後、WEB版『不登校新聞』緊急号外を随時更新するとともに、一人でも多くの子どもに届くよう、SNS等での号外の拡散に協力を求めている。(小熊広宣)
■全国不登校新聞社 緊急メッセージ「明日、学校に行きたくないあなたへ」
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