連載「不登校50年証言プロジェクト」
「教育機会確保法」が制定され、学校外の多様な学びに注目が集まっている。この多様な学びを推進してきた団体の一つである「おるたネット」(多様な教育を推進するためのネットワーク)は、多様な教育を保障する社会を目指すことを活動理念としてきた。今回は代表の古山明男氏に多様な学びのあり方に関してお話をうかがった。
古山氏は著書『変えよう! 日本の学校システム』(平凡社/2006年)のなかで、不登校を「子どもにとって自分に合った教育を提供されない」問題と見なし、日本の義務教育制度が学校教育法の規定する学校しか認めてこなかったことに警鐘を鳴らしてきた。古山氏は、不登校の苦しみは制度の不備による「制度公害」であると言い切っている。「教育機会確保法」制定前後で、学校外の多様な学びに注目が集まっているなかで、なぜ古山氏は法の制定のかなり前から、その必要性を訴え続けてきたのだろうか。
古山氏は70年代後半に出版社を退職したのち、千葉市で友人の子どもに算数を教えたことをきっかけに、算数の学びを中心とした塾を始めた。塾で算数を教えていく経験のなかで、子どもたちがなぜ教科学習でつまずくかを研究していた。
要点は、子どもが感性で物事を理解していることにあるという。たとえば、数字の「3」は抽象概念であるが、学校ではその定義を優先した授業が展開されがちである。そのため子どもたちが学びの意義を見いだせず、小学校の早い段階で教科学習の理解につまずくことになると古山氏は捉えるようになった。また、学習指導要領に基づいて授業が展開され、点数評価されるとき、一定数の子どもが授業のペースについていけず、「自分はダメだ」という意識を募らせるなどの問題も考えていた。これらの経験から、古山氏はシュタイナー教育やホームスクールなどのオルタナティブ教育の研究に進んでいく。先述したように、古山氏は不登校を「子どもに合った教育が手配されていない」問題と見る。古山氏らが「おるたネット」を立ち上げたのは08年のことであり、「教育機会確保法」を推進してきた「多様な学び保障法を実現する会」にも当初から参加してきた。もともと「教育機会確保法」の原案は「多様な学び保障法」と呼ばれ、教育選択権および私教育の自由の法的保障を求める主旨をもったものだった。その意味で現行法については物足りなさを感じているとも述べていたが、他方で学校及び教育委員会がフリースクールやホームスクールなどの存在を周知できるようになったことは意義があり、現在は既成事実を積み重ねるべき段階であるという。
また、当初案にあった個別学習計画については、教育機関単位ではなく、個人として教育を発生させられることはよかったと評価している。総じて、学習指導要領に縛られ、達成目標を柱とする学校教育のなかでスポイルされていく子どもの学びを個別のニーズに応じて保障していく点に「教育機会確保法」の発展性を見出すような語りであった。(本プロジェクト関東チーム委員・加藤敦也)
●不登校50年証言プロジェクト #37 古山明男さん
http://futoko50.sblo.jp/article/182905263.html
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